渋谷駅から宮益坂を登ること数分。賑やかな大通りから路地に入ると、雑踏とは一転した閑静なオフィスビルが連なる。遊書人2回目のゲスト・富田勉さんが代表をつとめる「saver」は、ビルの地下にオフィスを構える。階段を下ると日光のさし込むエントランスに迎えられ、ガラス張りの外壁の向こうには、整然と並ぶ黒い大型ディスプレーと観葉植物の緑が奇妙で開放的なコントラストをなしていた。
富田さんをどのような肩書きでお呼びするかは非常に難しい。個人事務所「勉庵」を持ちペーパークラフトからイラスト制作、広告ディレクターをする一方、Web3DやCGの制作・開発などのデジタル分野を活動領域とする株式会社「saver」の取締役兼ディレクターでもある。アナログの分野とデジタルの分野を架橋し、その境界を軽々と行き来する"越境者"なのだ。
インタビューはオフィスが一望できるオープンルームで行なわれた。「もともとバーにしたかったんですけど、飲んだくればかりだと仕事にならなくて」といういわくつきの部屋。バーカウンターには奇怪なオブジェクトが配置される。インテリア・カフェのような赤色ランプの明かりが漏れるなか、現在の創作活動のお話から本世界との付き合い方へと話題は展開していった。
雑多な領域をたゆたう

  【富田】「何の仕事をしているんですかってよく聞かれますけど、あまりに雑多で説明に困っちゃう状態なんです。まずオブジェの制作や2Dのイラスト、広告や空間デザインのディレクターといった仕事がある。昨年はうつくしま未来博のあるパビリオンのアートディレクションを行ないました。ここまではよりアナログ的な個人レベルの仕事。手を用い質感のあるモノや空間を相手にする、僕の基本的な領域です。
それとは別にsaverでの業務がある。saverはWeb3Dの制作・開発チーム、CG制作チーム、そしてデザインチームという大きな構成になっています。プログラムがあってCGが作れて、それをwebに吐き出す技術とデザインがあるというのは、今的なニーズに対応できる会社だと思っています。その中での僕の役割というのはコンセプトを出し、対外的にプレゼンし、方向性をディレクションする立場なんですね。

一見何でも屋で外見的には2つの顔を持つわけですけど、僕の中では全てが同根でつながる。制作するツールとしてコンピュータとかプログラムがありますが、問題はそれを用いて何ができるのかってことだけ。「質量を持ったモノがそこにある」というオブジェクト感と手触り感の滲み出した作品を作りたい。そのさいの手段はアナログであろうとデジタルであろうとあまり関係ないわけです。
僕の名刺を見てもらえば分かるのですが、肩書きは書かれていない。世の中の人たちは何屋さんか限定したいんでしょうね。それで安心したいんですよ。それよりも世の中のニーズによってジャンルを横断する自分がいる」

――アナログやデジタルといった手段の枠組みに左右されない富田さんの創作の源ってなんでしょう。  
  【富田】「僕はいまだに自分がどの方向ヘ向かっているのかがよく分からない。アートディレクションという立場上、それでは非常にあいまいすぎるんですけど。
例えば細い線、太い線、定規で書いた直線、ふにゃっとした線、そうした多様な線がある中で僕の好む線が何本かある。きっと質感や手触り感のある線に惹かれるのでしょうけど。そうした本質的に好む線の集合体が僕の造形に対する指向の束で、それを作品のかたちに反映させられれば満足できる仕事なのかなと思う。
なんでこんなに抽象的な解説しかできないかというと、僕はまだ自発的にものを作れない。今でもある課題を自分に与えないとエンジンが作動しない。クライアントから注文を受けて方向性を決定するディレクターという立場にいたのが長いせいかもしれませんが、僕はニーズがあってはじめて創造力が働くんです。「その場主義」の人間なの。

今回の取材の前にもあらかじめ3冊の本をセレクトして欲しいというオーダーがきたのですが、僕という人間がその数冊に限定されちゃうことになるので結構悩んだ。出た結論は今思いつくものでいいじゃんってことでした。僕の全てを数冊の中で表現することはできない、それなら今の自分を投影できれば、と。だから数ヶ月後や数日後に3冊を選んでって言われたら、全く違うラインナップになるかもしれない。
制作の現場でも同じことで、作品に自分の思想的・本質的な思考を封じ込めようというよりは、ニーズやその場のインスピレーションで対応するスタイルですね」

富田さんの仕事のひとつに、クニリサーチより発売されているメールソフト「Eudora ART Series」のディレクションがある。"ENIGMA"(エニグマ)、" Image"(イマージュ)、"edge"(エッジ)と続くシリーズの第2弾" Image"には「移ろいゆく夕暮れ」「たゆたう水面」というデザインコンセプトが付けられている。「移ろいゆく」「たゆたう」という言葉は富田さん自身を表現するキーワードでもあるだろう。インタビューでは始終「あいまいな人間ですいませんねぇ」と弁解しながらも、"今この瞬間の連続に浮上する"富田さんが紡がれていった。

 


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◎鏡リュウジさん
◎富田勉さん

 


  松岡正剛の千夜千冊言葉の景色絶品堂書録
図像学派タナローグ 遊書人香々庭園
 

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