◎グノーシス
◎桃山時代
◎グーテンベルクの印刷術
◎超越する博徒
◎サイバネティクス
◎鉄の宇宙誌
[第4形相]
超越する博徒
【解説】対話にあるように「侠客」、「やくざ」、また関西では「にわか」など、呼び方はさまざまな博徒だが、そこにその性格の多様な側面が表れているといえる。一般にいわれる「博奕を専業とする博奕打ち」という定義は、江戸時代の初期に遊び人の集団に対して使われたものが起源だが、古代末期以来、日本の資本主義の発生にかかわった神人の系譜をも受け継いでいるのだ。
 
 
神社が経済システムの生みの親
【高橋】その長吏は日本でもパワーを持ち始める。13世紀の初めに鎌倉幕府がようやく貨幣の流通を許可すると、神社に財を結集して、オリジナルの商品を作り出し、独占的に販売をしていくシステムが動き始める。ここに初期的な企業のような仕組みが発生する。それが「座」なんだね。そうして平安時代までの貴族が行ってきたような経済の仕組みをうち破っていくんだよ。このような地域生産流通システムを武家と貴族から守る、あるいは調停する顔役が長吏だった。松岡さんの『フラジャイル』に隠れた統率者として長吏について詳しく書かれているよ。
【鈴木】長吏って、実質的な医学知識が豊富だったという話を聞いたことがある。まだ日本に実質的な医学な見方が固まっていなかった頃は長吏の意見が大事だったんだって。
 でも、そのころまでお金はなかったんですか。なんか不思議ですね。
【高橋】もっと前にはあったけど、平安時代には貨幣の流通が禁止されていたんだ。なぜかというと、金銭があると特別な収入源が貴族以外にできてしまう。貴族のコントロールを離れた別の経済体系が発生することが問題視されたんだよ。しかし、当時の日本は中国の貨幣が実はすごく流通していた。みんな密輸して持って来ちゃうんだよね。貴族も便利で使ってしまうのだけれど、いまもある銭を卑しむ風潮というのは、ここら辺に原点があるのかもしれないね。
【鈴木】そんなにお金って卑しまれてましたっけ。いくらあっても困らないんじゃないですか。僕なんかはとくに欲しい!
【高橋】あはは。でも、守銭奴っていわれたら、やっぱりうれしくないだろ。
 さて、その長吏たちが行った経済活動の場所は、税の掛からない場所で行われた。中洲とか境界、つまり神域に置かれたんだ。三輪神社の素麺座、酒座なんかが有名だ。大山崎八幡の山崎油座などもあるけど、それは京都の手前で荘園から来る貢物を国の外側で処分し、流通させる役割をも担った。
【鈴木】あの三輪素麺とかですね。そんなふうに広まっていったんだ。そういえば福岡の中洲なども賑やかですよね。なんか解放区みたいに。
【高橋】そうそう。その経済の場所は神の結界なんだね。つまり結界はこの世の掟以外の神の法によって支配される場所だ。外国にも同様な観念があって、聖地が殺人とかの罪の浄化に用いられているね。
【鈴木】そーいえば、ロミオとジュリエットにもそんなような話がありましたっけ。殺人を犯したロミオがどこかへ行っていたような。もっともぼくが見たのはディカプリオの出た現代版で、なんか砂漠でしたけど。

やくざ・役座・厄座

【高橋】で、そういう座は、特権を維持するために護衛が必要だった。それが各地の神社に組織された神人(じにん)なんだね。彼らは神兵と呼ばれた。そういう座を仕切った長吏は地域を支配し流通拠点を持つことで、また、情報そのものを扱うようになっていく。三輪杉などに見られるように、シンボルを流通させたり、物語や歌謡を発生させたり、運輸や倉庫を経営して、物産を流通させた。そして、為替や小切手の仕組みもつくっていく。つまり金融組織にもなった。日本型の株はここに原点があり、その株式システムが座でもあったんだ。
【鈴木】株式って外国から来たんではないんですね。知らなかった。
【高橋】株というのはちゃんとした日本語なんだよ。座への出資者は株主となって、座の利益をリターンされるんだね。その座の仕切りをする人が「役座」だ。けれども織田信長の楽市楽座の政策によって座が解体されてしまう。それでも神域は独自の物産流通、サービス業、遊興業の拠点として、政府から自立した経済組織として活動しつづけた。そのような"公界"を守ったのが、"やくざ"なんだね。
 さて、やくざにはご承知の通り2種類ある。流通系と地域系だね。流通系は神社の祭りのときに出店を出すヤシ(香具師)系。地域系はその地域に密着したもので、神社の飾り物を売ったり、人材斡旋(口入屋)や芸能プロダクションのような事業などもしていた。浅草六区はもともとは神社の土地だった。その神の土地は独自の掟の体系を別に持ち、それを仕切るのが地域系のやくざだ。たとえば東京の新宿にも花園神社を中心とした地域系のやくざがいるね。
 そうそう、今日のシンボルに持ってきたこれは、神農という、香具師が祀った神様なんだ。
【鈴木】あっ、これは神様なんですか。ふーん。なんか噛んでますね。葉っぱですか。
【高橋】そう、この衣も葉っぱなんだ。山野を歩いて食物を探し、植物の茎をしがんでいる。神農はそうして食べられるものや毒と薬を噛み分けて人間に与えた。それで中国の最初の人間の導き手、三皇のトップとして尊敬されてきたんだ。これはアマテラスと並んで、伝統的なやくざの崇敬の対象となっている。やくざは物産の開発、流通に関係していたという痕跡がその信仰に残っているんだよね。
【鈴木】なんか結構な仕事人がその出身元なんですね。
【高橋】本来のやくざはこのような座の役、いってみれば、"厄の座"でもあるんだね。そういうシステムのリスクを背負うもの。つまり災厄の引き受け手でもある。それは神道では"代受苦"といって、日本の神の本質でもあるんだ。

2/3
 
 
2/3

  松岡正剛の千夜千冊言葉の景色絶品堂書録
図像学派タナローグ 遊書人香々庭園
 

立紙篇INDEX

© Copyright Editorial Engineering Laboratory.
All rights Reserved.
Edit Cafe │ ISIS編集学校 │ いと◎へん