セイゴオちゃんねる

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2008年7月30日

Diary 夕学五十講で日本という方法を語る

 7月23日、慶應丸の内シティキャンパス「夕学講」で、セイゴオが「日本という方法」をテーマに講演を行いました。

 「夕学(せきがく)とはいい名前ですね」。
 と、いつになく穏やかな口調で語りはじめたセイゴオ。かつて日本は、一日の始まりを夕方、すなわち「旦」に置いていたと言います。また、万葉時代の人麻呂の歌にあるように、夕刻に雑踏のなかに出て、言霊をキャッチし物事を判断する夕占(ゆうけ)がたいへん重視されていました。「旦」は、いずこからやってくるメッセージを受け取る刻限だったのです。
 一方、グローバル化し、グーグル検索社会化した現代日本ではいま、家族殺しや無差別殺人が連続しています。「どうもいまの日本は、メッセージというものが届きにくい社会になっているのではないか」。

 メッセージの見えにくい社会のことを、リキッド・ソサイエティ=液状化社会と言います。こういう世の中では、政治問題も経済問題も家族問題も、コトの大小や是非の区別がつきにくい。「しかし、日本はもともと、眼には見えないメッセージというものを扱う方法に長けていました。それを[仕事]にし、[仕切]にし、[仕立]にしていたはずなのです」。

 では、日本の「仕事」「仕立」「仕切」とはどういうものだったのか。セイゴオは、ここから、「高千穂神楽」や、自身が制作した歴史ビデオ「XYZ日本史」や「小堀遠州」の映像を使いながら、日本という方法の真髄を次々と提示しました。
 たとえば、眼には見えない神の姿を形にするために、何かを何かに仮託する「見立て」という方法。中国を理想の「真」として、日本的なものを「仮」としながらも、その両方をデュアル・スタンダードとして並立させる方法。これらは、唯一絶対の判断者を重視する一神教的な世界観とはまったく違い、多神多仏型・協議型の世界観を背景にしています。そのため、日本型の「仕切」には、ジャッジをすぐには下さない、保留が多い、両義的であるという「わかりにくさ」もあるのですが、そこからあえて二律背反を恐れない大胆な「仕立」も生まれていくのです。
 
 もうひとつ注目すべきは、「引き算」という方法です。とくに、枯山水や茶道は、おおもとにある「真」を徹底的に引き算して、極小の空間のわずかな景色にそれを仮託させるという「数寄」の精神によって、「わび」や「さび」という究極の美意識にまで到達しました。
 「こういう方法は日本にしか通用しないものでしょうか。アメリカン・ヒーローも決して円満具足ではないのです。グローバル・スタンダードにも、闇もあれば影もある。であれば、日本は、[わび][さび]をグローバリズムにも適応してみるべきです。」

 日本の方法をグローバリズムに適応させることを、かつては「和魂洋才」といいました。1900年前後、あいついで発表された内村鑑三の『代表的日本人』、新渡戸稲造の『武士道』、岡倉天心の『茶の本』は、まさにこの「和魂洋才」の精神を象徴しています。いずれも日本人が英文で書いて海外で発表し、ベストセラーになったものです。
 「けれども、この方法を日本人は忘れてしまいました。いま中国は、外来思想を中国的な感覚で取り入れる[西体中用]を盛んに展開しつつあります。日本が本来の[仕事]を取り戻すためには、欧米文化の直植えをやめて、文化の「苗代」づくりに取り組むべきです」。

 余韻がいつまでも響くようなメッセージで締めくくったセイゴオは、そのままステージにとどまって、司会が聴衆に促す質疑に応えようとしましたが、最後部席まで埋まった300人の聴衆からは一言の質問も出ません。この講座では珍しいことだったそうです。なおも質問を促そうとする司会を軽くたしなめて、「誰にでも言葉にしたくない刻限というものがあるんですよ」と言い残し、クールにステージを降りました。
 ところがその10分後、予定されていた著書サイン会のためにロビーに出ていくと、驚くほどの数の受講者が会場販売されていた本を手にセイゴオを待ち受けていました。セイゴオは、時間を惜しむことなく、丁寧にサインをしたためながら、その一人一人に声をかけ、思いのあふれるメッセージを受け取っていました。

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投稿者 staff : 19:00

2008年7月28日

Diary 日本文化デザイン会議で芳賀徹氏と対談

 7月14日(月)、赤坂BLIZで行われた日本文化デザイン会議2008「スピーチ漫陀羅~話すことって大切」にセイゴオが出演しました。日本文化デザイン会議の第30回記念シンポジウムという位置づけで行われた本会議は、河原敏文さんとマリ・クリスティーヌさんが司会をつとめ、セイゴオ、芳賀徹氏、稲越功一氏、榎本了壱氏、坂井直樹氏、しりあがり寿氏、手塚貴晴氏、香山リカ氏、茂木健一郎氏、速水亨氏など総勢23名が次々に登場。「日本」「生き物」「感性」「ものづくり」「食」「子供」などをテーマに、ジャンルを越えた8組の顔合わせによるショートセッションが繰り広げられました。

 セイゴオはそのトップバッターとして、「日本」をテーマにと対談。「文化のリユース」をキーワードに、古代から近代にかけての日本のすぐれた方法を振り返りました。たとえば、平安時代には名歌をリユースする「本歌取り」という手法が確立し、王朝文学のみならず、その後の文芸や芸能にまで広く影響を与えていたこと。また江戸時代に、それまで広まっていた鉄砲を禁止したことにより、その技術を活かして各地で花火製造が盛んになったことなどです。
 現代の日本はもう一度、かつての歴史を総ざらいしつつ、方法を「リユース」することで厚みと深みをもった新文化をクリエイトすべきではないか。短時間ながらも多様な例示と鋭い指摘を随所に盛り込んだ対談が、そのように締めくくられました。

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投稿者 staff : 22:50

2008年7月24日

News セイゴオ構匠「組子手文庫」販売開始!

 松岡正剛が手掛ける「ものづくり」シリーズ「セイゴオ好み【時分】」の第一弾、「組子手文庫」(くみこてぶんこ)が、7月5日の「連塾-JAPAN DEEP」で先行披露され、いよいよ販売が開始されました。

 「セイゴオ好み【時分】」は、連志連衆會を母体として生まれたプロジェクトです。「連塾」などの場で展開してきた「日本という方法」を、形のある品々にして発表していくことをめざしています。セイゴオが棟梁となって、多彩な職人やアーティストとのコラボレーションによる格別な逸品を作ります。
 
 プロデュースは、今年3月に設立された合同会社「品組」(しなぐみ)。連志連衆會理事である新宅正明さん(日本オラクル会長)・黒澤保樹さん(シスコシステムズ顧問)が中心となって準備してくださった機構です。

 7月24日にオープンした品組サイトに、セイゴオの「ものづくり」への思いや、また「組子手文庫」の詳細案内や申し込み方法などが掲載されていますので、ぜひご覧ください。

 品組サイト  http://shinagumi.com/

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◆極小の数寄屋―「組子手文庫」の趣向

 今回リリースされた「組子手文庫」は、文庫本を仕舞うのにぴったりの小さな本函。ただし、日本建築の伝統工法を随所に取り入れながら、独特の組み合わせで仕上げた精緻な意匠は、本函というよりも極小の数寄屋のよう、しかも未知の魅力をもった斬新な数寄屋です。
 構想はもちろんセイゴオ。制作は、秋田に木工所を構える高階隆志(たかかい・たかし)さん。日本有数の組子の技術をもつ若き匠です。本好きのセイゴオの好みと、高階さんの技術が重ねられ、手の込んだ連子格子を「引き戸」に組み込むという大胆な発想が生まれました。

 今回リリースされたのは、秋田杉を使った「SUKIYA」と胡桃を使った「RANGA」の二種。秋田杉も胡桃も、厳寒の北方で育てられた稀少な銘木です。型はほぼ同じですが、それぞれの木材の個性の違いから、「SUKIYA」は古代の「社」のような瀟洒な佇まいが、「RANGA」はモダンで粋な風趣が特徴となっています。
 ちなみに「RANGA」の銘は、江戸後期に人気を博した「秋田蘭画」にちなむもので、もちろん高階さんが秋田の職人であることにちなんでセイゴオが名づけたもの。

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 開けても閉めても風情ある組子の連子格子

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 秋田杉の木目の美しい「SUKIYA」には古代の「社」の面影

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 胡桃材の紫褐色がモダンな空間によく似合う(撮影協力:金沢「漱流」)


◆仕上げは秋田で、手書きの「名入れ」

 「セイゴオ好み【時分】」は、もともと少量制作・少量頒布をすることを前提に作られるシリーズです。そのため、一品一品に、その稀少な価値を保証する「名入れ」とシリアルナンバーの書き入れを、セイゴオが自分で行うことにしています。ちなみに、手文庫の頒布数は「SUKIYA」「RANGA」ともわずか15台ずつ。

 手文庫への「名入れ」は、今年4月、セイゴオが秋田の高階さんの工房を訪ね、3日がかりで一点一点、丁寧に行いました。手文庫を収納するための特製の桐箱(高階さんによるオリジナル)にもセイゴオが銘を書き入れ、高階さんと二人で並びの印を施しています。ひとつひとつ書体や字配りを変えた遊び心のある「名入れ」によって、まさにセイゴオ好みな「時分」の趣向が完成しました。

 なお、手文庫に購入申し込みをしてくださった方には、セイゴオがそれぞれの方の気分を察知して、3冊の格別な文庫本を選んで、サインやメッセージをしたためたうえで贈呈することになっています。

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 銀の塗料で「RANGA」に名入れ中のセイゴオ(撮影場所:秋田高階木工所)

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 全手文庫・桐箱の名入れを終えて、高階さんと記念撮影

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 手文庫には、やはりセイゴオの文庫がよく似合う


◆今後の「セイゴオ好み【時分】」

 「組子手文庫」に続く第二弾として、今年10月には京都の印染職人の掛札英敬(かけふだ・ひでたか)さんとのコラボレーションによるオリジナルの風呂敷を発表予定。セイゴオの一字書「色」「旬」を、それぞれ墨染・柿渋染の大判木綿風呂敷に仕立てることになっています。また、遠州流家元・小堀宗実さんとともに、現代の「きれいさび」を新たに提案するミニ茶道具セットやミニ文房セットなども展開予定です。

 今後、当「セイゴオちゃんねる」では、その制作プロセスなども折々お知らせしますので、どうぞご期待ください。

投稿者 staff : 21:26 | コメント (0)

2008年7月19日

Report 連塾「JAPAN DEEP1」ダイジェスト

 2008年7月5日(土)、松岡正剛が塾長をつとめる「連塾」の新シリーズが開幕しました。

 「連塾」は、「日本という方法」を伝授する場として2003年にスタートしたハイパートークイベントです。第1期では、全8回・のべ50時間の圧巻のセイゴオソロ講義が話題を呼び、第2期では総勢25人ものゲストとパフォーマンスを交えた多彩なセッションを全4回にわたって展開。「特定少数」のための塾として、当初は50人ほどに限定されていた塾生は、回を追うごとに増え続け、昨年末(2007年12月22日)草月ホールで開催した「浮世の赤坂草紙」では、300人近い塾生が会場に詰めかけ、大盛況でした。

 そして、いよいよ「連塾」6年目第3期を迎えるにあたり、セイゴオは第1期・第2期とは趣向を変えて、格別なゲストたちと存分に語り合い、方法日本の底辺を探るディープなプログラムを企画。これを題して「ジャパン・ディープ」と名づけました。

 その初回である7月5日の会場となったのは、ドイツ文化会館内のちょっとレトロなOAGホール。ここは赤坂稲荷坂上を拠点とするセイゴオにとってはなじみの“御近所さん”で、毎年末、会館内のレストラン「葡萄屋」で編集工学研究所が納会を行っているほどです。が、連塾第1期から演出と照明を担当している藤本晴美さんと、藤本さん率いるテクニカルチーム(藤本組)が、前日から入念に仕込んだ“マジック”によって、セイゴオも驚くような「JAPAN DEEP」な空間が、煉瓦造りの日独文化交流の城の中に出現しました。


◆森鴎外の見つめた「於母影」に寄せて

 「連塾」では、第2期以降、セイゴオの好みを反映して、ステージ上に本や書棚が絶妙に配置されるようになっているが、今回も、数十冊のセイゴオの蔵書がディスプレイされた。さらに、オブジェランプが林立して灯され、その真ん中には特注の鉄製のディレクターズチェアが置かれた。眼に入るものすべてが黒に統一され、微量の赤が映える見事なステージデザインだ。

 やがて、黒地に赤字の大胆な「JAPAN DEEP」のロゴがスクリーンに浮かびあがり、ディートリッヒのけだるい歌声が流れ出す。これを出囃子に、黒いスーツのセイゴオがゆっくりと登壇した。

 ちょうど120年前の明治21年7月5日、ドイツ留学を終えて日本に帰ってきたある人物がいる。陸軍二等軍医としてベルリンに渡った森林太郎、すなわち森鴎外である。若き鴎外の肖像画の前で、帰国後の鴎外が発表した訳詩編『於母影』に触れつつ、セイゴオはたちまち「JAPAN DEEP」のおおもとにある日本の面影へと言葉を加速させていった。


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黒と赤。藤本晴美さんが演出したステージデザイン。

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若き森林太郎のこの眼に惹かれてセイゴオが選んだ肖像写真

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「連塾」では毎回、手元に十数枚のレジュメを用意して精妙な語りを展開する


◆さまよえる魂の歌―岡野弘彦さん

 一人目のゲスト、岡野弘彦さんは今年84歳になられる当世随一の歌人。セイゴオにとって長年の憧れの人物だったが、ちょうど1年前、念願かなってプライベート対談が実現した。開口一番、「日本にはビン・ラディンがいない」と嘆く岡野さんに、セイゴオはますます憧れをつのらせたものだった。
 もちろん、公開の場での対談は、この日が初めてである。セイゴオはまず、三十五代つづいた三重の山奥の神主の家に生まれ、神宮皇學館で記紀・万葉集に目覚め、國學院大學で折口信夫に出会うまでの、岡野さんの半生記を、つぶさに聞き出していった。

 岡野さんは、23歳のときに折口信夫の内弟子となり、7年にわたって国文学・民俗学・和歌の方法を直伝され、その死を看取った人物としても知られている。次第に、岡野さんの語りは、折口と過ごした日々のエピソードを交えつつ、折口の精神や「さまよえる魂」をめぐる極点へと進んでいく。さらに、折口が、学徒出陣を命じられた弟子たちに、「一人でも多く生き残り、国学を再生してほしい」という思いを歌に託して贈ったというエピソードには、セイゴオも胸を射ぬかれたような表情で深く頷いていた。

 後半は、岡野さんが、土岐善麿、齊藤茂吉、釋超空(折口信夫)の短歌と自選句を、折口仕込みの独特の節回しで朗詠するという、とびきりの「JAPAN DEEP」が展開した。かつてそのようにして短歌は詠じられるものだったと語り、最後は自作の旋頭歌「若葉の霊」を、せつせつと、染み透るような声で披露した。戦場で散った少年飛行兵たちの鎮魂のためにつくられたという。

 世の末の むごき戦に 命ほろびぬ
 隠り世は あまりさびしと 泣きしづむらし

 悔い多き 世をながらへて 老いに到りぬ
 怒らじと こころは思へど 死にがたきかも

 湧きあがるような満場の拍手を浴びて降壇する岡野さんを見送ったあと、セイゴオはすっかり胸が詰まってしまったのか、しばらく絶句したまま、ステージの真ん中にたたずんでしまうというハプニングがあった。
 

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岡野さんの著書を紹介しながら対話が始まった

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遠州流家元の小堀宗実さんがさっそうと登場し、岡野さんに呈茶

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「年のせいで声も枯れてしまってますが」と言いつつも艶やかな84歳

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少年飛行兵への鎮魂。自作の旋頭歌をせつせつと詠じる

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しばらくステージで言葉を失ってしまったセイゴオ

◆日本アニメの秘術は残る―押井守さん

 2人目のゲストである押井守さんは、8月公開予定の最新作「スカイ・クロラ」の、圧倒的な飛行戦闘シーンの映像のなか、セリでゆっくり舞台に登場した(この押井さんの登場シーンに合わせて会場を照明で真っ赤に染めるために、「藤本組」は前日から10回以上ものリハーサルを繰り返していた)。

 押井さんとは何度目かの公開対談であるが、アニメ監督としての押井守誕生のエピソードを詳しく聞き出したのはセイゴオもこの日が初めてだったろう。年間500本以上もの映画を見続けていた押井青年は、タツノコプロに入社し、TVアニメ「ヤッターマン」を担当し、得意とは思っていなかったギャグが受けたことをきっかけに、プロのセンスを身につけて行ったという。

 インタビューの展開にあわせて、スクリーンでは、代表作「天使のたまご」「攻殻機動隊」「アヴァロン」「イノセンス」のエッセンスを凝縮した特別編集映像が大音響で上映される。セイゴオが対話中に折々強調したように、ハリウッド映画がいかに押井さんの手法を盗み続けてきたのかということが、この日初めて押井作品に触れた人にも如実に伝わったことだろう。

 押井さんは、近年、自分の仕事の秘密はCG技術ではなく、「秘術」にあるのではないかと気づいたと語る。アニメーターたちの仕事はいわば宮大工の仕事のようなものではないかという。いずれアニメーションという技術は廃れるかもしれないが、「かつてそこまで到達した技術が存在していた」ということはきっと残るはずだと不敵に微笑む押井さんの言葉に、またしても「JAPAN DEEP」が極まった。


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顔を合わせればたちまち本題に突入し加速していく二人

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押井さんの代表作「攻殻機動隊」のハイライトシーン

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多軸絶妙なインタビューで押井さんの「秘密」を聞き出していく

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「日本人はモノに魂が宿ることを自然に受け入れる民族です」


◆数寄の手文庫がお目見え―交歓おつまみ連餉

 この日の東京は朝から30度を超える酷暑となり、設備もレトロな会館とあって、空調がフル稼働しても、客席では無数の扇がせわしなく煽がれていた。それでも、ゲストとセイゴオの深まりゆく対話に耳傾ける約200人の塾生の表情は、汗だくながらも真剣そのものだった。

 そうして岡野さんの120分、押井さんの90分が終わったところで、ここで「連塾」恒例の、軽食交歓タイムとなった。ドイツ文化会館ロビーには、セイゴオも懇意のレストラン「葡萄屋」が腕をふるって、山盛りのドイツ・ソーセージやプレッツェルを用意してくれた。

 ロビーの一画には、セイゴオが“棟梁”となって制作した、「組子手文庫」の完成作品も展示された。文庫本を収納するのにぴったりの小さな書函なのだが、その意匠は連子格子の引戸や姫棚が付けられた精緻なもので、コンセプトは「極小の新しい数寄屋」である。セイゴオのこのようなモノづくりを支えるために、今年3月に、連志連衆會を母体とする合同会社「品組」も立ちあがっている。

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連塾では全出席者に名前入りの特製ファイルが用意される

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大好評だった本場ドイツのプレッツェルとソーセージ

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「組子手文庫」は秋田杉の「SUKIYA」とウォールナットの「RANGA」の二種類

◆セリフは日本語で綴りたい―井上ひさしさん

 この日、3人目にして最後のゲストは井上ひさしさんである。つねづね「ぼくよりも100倍編集力のある人」と井上さんを敬愛するセイゴオは、「連塾」に御本人を迎えるにあたり、井上さん率いる劇団「こまつ座」のビデオを多数入手し、井上編集術の至高がわかる場面をよりすぐって、それを上映しながら対話するというプログラムを組んだ。

 『藪原検校』劇中の、脚韻を駆使した尽し歌や数え唄。シェイクスピア全作品を織り込んだ驚異の作品『天保12年のシェイクスピア』では、ハムレットのセリフ「to be or not to be」の明治以降現代までのあらゆる翻訳が、たたみかけるように連打される。「なぜここまで徹底されるんですか」というセイゴオの問いに、井上さんは、「ここまでやらないと仕事をした気がしないんです」と笑いを誘いながら、日本語の成り立ちや特徴に根ざした方法論を明快に語る。

 さらに話題は、芝居を成立させるための舞台と観客の間合いというとっておきの話にさしかかる。ある劇場に居合わせた5人の観客たちを例にしながらたちまち物語を仕立てていく軽妙な井上トークに、客席から何度も打てば響くような笑いと拍手が起こる。「宇宙のなかで起こるたった一回限りのできごとを共有する。それが芝居を見るということ」。そう語る井上さんも、「連塾」の観客たちとの一期一会をおおいに楽しんでいるようだった。

 外来語を安易には使わない、できるだけ和語でセリフを綴ると語る井上作劇の魂が披露されたところで、最後に、セイゴオが『きらめく星座』の舞台映像を紹介した。これは井上さんがはじめて、みずから演出を担った記念碑的な作品である。日本の戦争というものを今も見つめ続ける井上さんの「JAPAN DEEP」な精神と、それを笑いと涙に変える編集術のクライマックスが、またしてもセイゴオの胸を揺さぶったようだ。そして、そんなセイゴオの感極まった気分に、井上さんもすっかり感染してしまったようだった。

 夏木マリが「青空」を熱唱する『きらめく星座』のラストシーン。突然、空襲警報の鐘が鳴り、舞台が暗転する。スクリーン中央に「演出・井上ひさし」の文字が浮かび、ストップモーション。黒いステージに地明かりが灯る。スクリーンを見上げていた井上さんとセイゴオが、顔を見合わせる。そのまま立ち上がり、言葉少なく、固い握手をかわす。スクリーンがライブ映像に切り替わると、心なしか二人の眼がうるんでいるようだった。

 「森鴎外の於母影。日本の面影。ゲーテはそれを“BILD”(ビルト)と呼びました。それは単なる日本のルーツやノスタルジーなどではありません。橋掛りのように、何かを超えてやってくるものなのです」。

 万感の籠ったセイゴオのラストメッセージに拍手が響く。そこにまた、ディートリッヒの枯れた声がかぶさり、7時間にも及んだ「DEEP JAPAN 1」が、真っ赤な照明で染め上がり、終演した。


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ライブ映像技術も第3季にあわせて格段にバージョンアップ

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随所で笑いを取りつつ日本語の芝居へのこだわりを明言する名人トーク

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長丁場を締めくくるラストトーク。少し疲れを見せつつも会心の表情

*写真撮影 川本聖哉

投稿者 staff : 21:40

2008年7月14日

News 「祈りの痕跡。」展で浅葉克己さんとコラボレーション

東京ミッドタウン「21_21 DESIGN SIGHT」で7月19日から始まる「祈りの痕跡。」展のために、浅葉克己さんとセイゴオとのコラボレーションによる特別記念冊子『魂跡抄』の制作が進んでいます。また、8月3日には、アサバ・セイゴオによるスペシャルトーク「動く文字・定める文字」も開催。

この展覧会は、地球文字探検家である浅葉克己さんが脚で探した、古代~現代のさまざまな「祈りの痕跡」を集めたものです。杉浦康平さんの「文字の宇宙」や李禹煥さんの絵画作品、木田安彦さんの「不動曼陀羅」、内田繁さんの「DANCING WATER」、大嶺實清さんの陶芸作品など、多様な作品や「痕跡」が、浅葉さんの構成による「世界の文字」「世界の未解読文字」のパネルとともに展示される予定。

特別記念冊子『魂跡抄』には、本展覧会の出典作家のほかに、「21_21 DESIGN SIGHT」のディレクターである三宅一生さん・佐藤卓さん・深澤直人さん・川上典李子さんや、ミュージアムを設計した安藤忠雄さんなど総勢24人のドローイングや書簡や手書き譜などが、古今東西のアーティストや作家の「魂跡」とともに掲載されます。


■「祈りの痕跡。」展
  会期: 2008年7月19日(土)~9月23日(火)  11:00~19:30
  会場: 東京ミッドタウン・ガーデン内「21_21 DESIGN SIGHT」


■スペシャルトーク「動く文字、定める文字」(浅葉克己+松岡正剛)
  日時: 8月3日(日) 14:00~15:30
  会場: 東京ミッドタウンホール
  参加費: 500円
  申し込み方法: 下記サイトの「関連イベント」コーナーからお申し込みください。
http://www.2121designsight.jp/schedule/inori/outline.html
 

■記念冊子『魂跡抄』(こんせきしょう)

  アートディレクション・デザイン  浅葉克己
  編集・文章寄稿  松岡正剛
  限定1000部制作  1050円(税込)
  *展覧会会場・トーク会場などで販売予定
 

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『魂跡抄』打ち合わせ中のアサバ・セイゴオ


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投稿者 staff : 17:40

2008年7月 2日

News 夕学五十講講演 「日本という方法」

慶應丸の内シティキャンパスでソロ講演

慶応「丸の内シティキャンパス」(MCC)が主催する「夕学五十講」で、セイゴオが「日本という方法」をテーマに、2時間のソロ講義を行います。「MCC」は、慶応義塾大学が社会人のために開校している実学重視の学問の場。そのなかでも、「夕学五十講」は、年間プログラムを受講していない方でも気軽に参加できる講演会です。

セイゴオの講演要旨は次のとおり。

いま日本は混迷し、混濁し、混乱している。ナショナル・インタレストを見失ってもいるが、そもそもの思考力や歴史観も動揺したままだ。私はこのような時期には「日本という方法」を問うべきだと思う。グローバリズムかローカリズムかという見方を捨て、日本に内在してきた「持続可能な方法」に着目すべきなのである。その特徴はデュアル・スタンダードにひそむ。その例示をしながら、大胆な提案をしてみたい。


日時:7月23日(水) 18:30~20:30(開場 18:10)
会場:丸ビル7階 丸ビルホール(JR東京駅丸の内南口から徒歩約1分)
受講料:4,410円~5,250円/枚(税込) *回数券購入により受講料がかわります
お申込み・お問合せ:慶應丸の内シティキャンパス「夕学五十講」事務局
TEL 03-5220-3128(平日 10:00~17:30) FAX 03-5220-3129
E-mail sekigaku-info@keiomcc.com

 詳しくはこちら→ https://www.sekigaku.net/

投稿者 staff : 09:27