千六十四夜【10642005年10月11日

Seigow's Book OS / CORE
ポール・ヴィリリオ
『情報化爆弾』
1999 産業図書
Paul Virilio: La Bombe Informatique 1998
丸岡高弘 訳


表紙:『情報化爆弾』
©産業図書

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ポール・ヴィリリオ

ポール・ヴィリリオ



『速度と政治』ポール・ヴィリリオ

『速度と政治ー地政学から時政学へ』
ポール・ヴィリリオ 著
市田良彦 訳
2001 平凡社



『戦争と映画』ポール・ヴィリリオ

『戦争と映画ー知覚の兵站術』
ポール・ヴィリリオ 著
石井直志・千葉文夫 訳
1999 平凡社




『瞬間の君臨』ポール・ヴィリリオ

『瞬間の君臨ーリアルタイム世界の構造と人間社会の行方』
ポール・ヴィリリオ 著
土屋進 訳
2003 新評論


『情報エネルギー化社会』ポール・ヴィリリオ

『情報エネルギー化社会ー現実空間の解体と速度が作り出す空間』
ポール・ヴィリリオ 著
土屋進 訳
2002 新評論

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自殺へ向かう世界』ポール・ヴィリリオ

『自殺へ向かう世界』
ポール・ヴィリリオ 著
青山勝・多賀健太郎 訳
2003 NTT出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

『幻滅への戦略』ポール・ヴィリリオ

『幻滅への戦略ーグローバル情報支配と警察化する戦争』
ポール・ヴィリリオ 著
河村一郎 訳
2000 青土社

  脳がアナロジーを担当すべきところを機械がテクノロジーで代替してしまったのだ。一言でいえば今日のIT社会の問題のすべてが、この「アナロジーからテクノロジーへ」ということに集約される。
 こんなことは世の中を見ていれば至極当然な推移だと思っていたのだが、意外にも誰も指摘してこなかった。もっとも世の中の推移を見抜くには少しは鍛練がいる。縮めていえば「人間の生物的な本来」と「文化の社会的な将来」の両方についてちょっとばかり思索を深めていなくてはいけない。もっと短く縮めていえば「脳と言葉」「経済と機械」の両方の問題を解くスコープが同レベルで重なって見えてなければならない。世の中の推移を見るには、大脳主義者ふうの唯脳論や言語主義者ふうの素朴意味論者やMBAふうの予測に走る経済主義理論では、まったく役に立たないのだ。「脳と言葉」「経済と機械」をいつも連動させて見る必要がある。
 しかしその程度のことをふだんからしていれば、「アナロジー」こそが本来なのに、「テクノロジー」の将来がそちらに向かわないで、逆にアナロジーの解体や腐食を促しているだろうことは一目瞭然なのである。

 IT社会とは「何事もデジタル情報にする社会」なのではない。情報社会というなら、文字や書物が生まれてこのかた情報社会ではなかった歴史などはない。ユビキタスだとか電子経済だとかウェブ社会というのはそうではなくて、「何事も高速大量に情報にして、判断を情報化に即して了解してしまう社会」なのである。ようするに自分のアナロジーが奪われていく社会なのだ。
 そんなことを感じていたら、なかでポール・ヴィリリオがそのことに気がついて発言を始めていた。読んでいてすぐ感じたけれど、この人は最初から勇敢だった。
 
 1冊目は『速度と政治』だった。テクノロジーを利用しているなどとんでもなくて、われわれがテクノロジーに完膚なきまでに利用されていることを暴いたこの著作は、一方でドロモロジー(速度学)の開闢を告げるとともに、他方で「すでに速度が政治を超えている」ということを告げた。『戦争と映画』や『瞬間の君臨』は写真や映像や照明や電子機器をとりあげて、一方でドロモスフェール(速度時空圏)が覆いかぶさっていることを指摘するとともに、他方でリアルタイムな情報の高速授受はたんに「外観移送」(トランサバランス)をしているにすぎないことを喝破していた。
 これらを高度情報社会の問題に鉈をふるうかたちに集約してみせたのが『情報エネルギー化社会』と『電脳世界』である。後者のサブタイトルに「最悪のシナリオへの対応」とあるように、ここでのヴィリリオはメディアの軍事性を抉りつつ、われわれすべてがいつのまにか無自覚なトランスプレイヤーにさせられている実例をふんだんに見せつけた。ヴィリリオは「メディアが政治と法と感情を超えた」と言い放ち、報道はその情報を伝えているのではなく、出来事のすべてを情報に還元することによって、政治と法と感情そのものを複合メディア化をしているにすぎないと断罪した。

 ヴィリリオの文章はわかりにくいが、その思想は簡潔である。とくに難解なところはない。勇敢ではあるが、アヴァンギャルドでもない。世の中の推移を「脳と言葉」「経済と機械」を切り離さずに観察しているだけなのである。推移が速いぶん、ヴィリリオの言葉も高速になっているだけなのだ。
 諸君なら、たとえば、次のような事例から何が観察できるだろうか。
 ‥ベネトンがやったことは誰が誰をメディア化するのかという広告テロ戦略だった。広告はメディアの裂け目を見いだすしかなくなったのだ。‥映像の検閲がゆるゆるになるにしたがって、映像作家たちの想像力がさらにゆるゆるに衰えている。それより速く観客の想像力は枯渇する。‥CNNのせいで、いまや大衆はどこの国に対してもホームシックにかかれるようになった。その病気に罹らなかった連中は、たいてい自分に対してホームシックになっている。‥自動車の著しいハイテク化は、建物の一部を切り離してコンピュータにして、そのあとに4つの車輪をついでにつけたようなものだった。それでも事故がおこるのだから、あとは無視界コックピットが待つだけだ。‥ユビキタスな電子住宅こそ監獄である。閉じ込められれば閉じ込められるほど便利になるというのだから。‥OPA(株式公開買付制度)が残された経済的自由だと思えるのは、1秒後の瞬間情報を確信したいからである。きっとその情報が自分のところに来たものだと思いすぎたのだ。‥選挙はとっくにサブリミナル戦争になっている。政治がカジノになるのは投票者が博打が好きになっているせいだろう。

 ヴィリリオがテクノサイエンスを唾棄していると思ったら大まちがいである。衆愚の軽挙妄動に腹をたてているのでもない。
 テクノサイエンスは嘘をつくのがうまくなりすぎたと言ったのだ。嘘がうまくなったというのは、ニセモノの情報をふりまいているということではない。何でもリアルっぽく見せることがうまくなったということだ。大衆の軽挙妄動もいまに始まったことではなくて(第199夜に書いたように、そんなことはオルテガの時代にはやくもピークに達していた)、情報化された情報がトランスアパランス(超外観)になりすぎて、また高速ハイパーリアルになりすぎて、大衆はそれ以外の情報を受信する余裕がこれっぽっちもないということなのである。
 つまりは、アナロジーが衰退してテクノロジーが隆盛しているというだけなのだ。ヴィリリオはこのことを『自殺へ向かう世界』という一冊の表題としても揶揄してみせた。
 もうひとつヴィリリオがいつも言っていることがある。グローバリゼーションとは、歴史の完成の開始を意味しているのではなくて、地球のもっていた可能性の領域の終了と閉幕を意味しているということだ。これをいいかえれば、メッセージの速度それ自体がメッセージになってしまっているということだ。
 アナロジーを奪ってはいけない。ヴィリリオはこの世で一番面倒な事態が進捗しつつあることに、ともかく一人でも闘いを挑みたかった男なのである。

 ポール・ヴィリリオはパリ建築専門学校(建築大学ESA)の校長の職にある。60年代に「不均衡」というコンセプトを持ち出して、従来の建築が内部と外部を分断しすぎてきたことに抵抗した。そこで「斜め」(オブリック)の空間によって内外のあいだを動かした。少ないけれど、実作もした。クロード・パランと共同設計したサント・ベルナデット・デュ・バンレー教会がある。
 その後は、都市計画にも傾注するのだが、その都市自体がおかしくなっていた。たまらず、カルチェ・ラタンの1968年にはオデオン劇場の占拠にも乗り出した。
 しかし、実際の空間をいじったり行動をおこすだけでは何かが足りないと判断したようだ。しばらくするとヴィリリオは「世界という空間」と「世界という時間」そのものが根底から壊れつつあることに気がついて、その症状の解明に向かっていった。そのときの"方法の概念"が「速度」と「事故」なのである。「事故」については2002年の年末から翌3月まで、カルチェの現代美術館で同盟の展覧会を企画構成をした。これは9・11事件に対するヴィリリオのメッセージであった。
 その後のヴィリリオはもっぱら情報問題やメディア問題に立ち向かう。本書はその精華のひとつだが、『幻滅への戦略』ではさらに情報のグローバリズムに敢然と立ちはだかって、このままではすべての自由主義がイコール監視主義になるだろうことを警告した。
 ヴィリリオがこのような思索や活動をするようになった背景には、根深いトラウマが関与しているようだ。生まれたのが1932年で、父親がイタリア人のコミュニスト、母親はフランス人だった。幼児期はパリ、その後はドイツ占領下のナントなのである。ナントは1942年に爆撃された中世都市である。この10歳の爆撃の記憶は、長ずるにしたがって大きくなっていったようだ。

 かつて、アラン・ジュフロワに伴われたフェリックス・ガタリが工作舎を訪ねてきたことがある。ジュフロワが「日本でおもしろいのは松岡だ」と何を根拠にそう言ったのかはわからないが、ガタリを連れてきた。そのときガタリはのちに伝説的な自由FM放送局として有名になった「ラジオ・トマト」を相棒とともに開局したばかりだった。その相棒というのがポール・ヴィリリオだったのである。
 ぼくはそのころヴィリリオについてはまったく知らなかった。ただガタリが「ドゥルーズに匹敵するラディカルな知性だよ」と言ったのをおぼえている。
 もうひとつ、まことににちょっとだけだが縁がつながりかけた話がある。ヴィリリオは20世紀最後の万国博となったハノーヴァー万国博のフランス館のプロデューサーとなった。ぼくはそのときの日本館の構想委員だったのである。ただしぼくの企画は蹴られ、ヴィリリオの企画は通った。フランス政府がラディカリズムが好きなのか弱いのかはわからないが、日本政府と地方自治体と官僚たちは、もっとずっと以前からのことであるけれど、ラディカリズムは絶対にお呼びじゃなかった。
 そのときぼくが提案したコンセプトは「フラジリティ」だった。役人が言ったものだ、「壊れやすいだなんて、日本館にはもってのほかでしょう」。すでに日本は壊れかけていたにもかかわらず――。



附記¶以下の順に読むのが、日本語訳としてはいいだろう。『速度と政治』『戦争と映画』(平凡社ライブラリー)、『純粋戦争』(UPU)、『情報エネルギー化社会』『瞬間の君臨』(新評論)、『電脳世界』(産業図書)、本書、『幻滅への戦略』(青土社)、『自殺へ向かう世界』(NTT出版)。ではヴィリリオの世の中の推移についての予見をもうひとつ。「これからは、おそらく光学的密告時代が加速するでしょう」。








 






 

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千 夜 千 冊 BACK NUMBER

[目次]

1144

『海上の道』柳田国男

1143

『異装のセクシャリティ』石井達朗

1142

『日本人の自画像』加藤典洋

1141

『稲と鳥と太陽の道』萩原秀三郎

1140

『猿と女とサイボーグ』ダナ・ハラウェイ

1139

『カムイ伝』白土三平

1138

『江戸の枕絵師』林美一

1137

『ゲイ文化の主役たち』ポール・ラッセル

1136

『悪徳の栄え』マルキ・ド・サド

1135

『非常民の性民俗』赤松啓介

1134

『日本創業者列伝』加来耕三

1133

『市場の書』ゲルト・ハルダッハ&ユルゲン・シリング

1132

『女帝の手記』里中満智子

1131

『日本/権力構造の謎』上・下 カレル・ヴァン・ウォルフレン

1130

『多文明共存時代の農業』高谷好一

1129

『木村蒹葭堂のサロン』中村真一郎

1128

『江戸商売図絵』三谷一馬

1127

『性的差異のエチカ』リュス・イリガライ

1126

『インターネット資本論』スタン・デイビス&クリストファー・マイヤー

1125

『ボランティア』金子郁容

1124

『アヴァン・ポップ』ラリイ・マキャフリイ

1123

『笑いの経済学』木村政雄

1122

『ぼくの哲学』アンディ・ウォーホル

1121

『百物語』杉浦日向子

1120

『女性の深層』エーリッヒ・ノイマン

1119

『北条政子』永井路子

1118

『ネット・ポリティックス』土屋大洋

1117

『T.A.Z.』ハキム・ベイ

1116

『江戸の身体を開く』タイモン・スクリーチ

1115

『資本主義のハビトゥス』ピエール・ブルデュー

1114

『猫と小石とディアギレフ』福原義春

1113

『江戸の市場経済』岡崎哲二

1112

『田中清玄自伝』田中清玄・大須賀瑞夫

1111

『黒い花びら』村松友視

1110

『昭和という時代』鈴木治雄対談集

1109

『澄み透った闇』十文字美信

1108

『市場対国家』ダニエル・ヤーギン&ジョゼフ・スタニスロー

1107

『負ける建築』隈研吾

1106

『未来派』キャロライン・ティズダル&アンジェロ・ボッツォーラ

1105

『写真ノ話』荒木経惟

1104

『建築的思考のゆくえ』内藤廣

1103

『バイ・バイ・キップリング』ナム・ジュン・パイク

1102

『コンセプチュアル・アート』トニー・ゴドフリー

1101

『モダンデザイン批判』柏木博


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