六百六十七夜【06672002年11月26日

Seigow's Book OS / PIER
田中宇
『タリバン』
2001 光文社新書

original
transelater
[表紙]『タリバン』
©光文社

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 アメリカが自国を中心に世界を一つにしようとした1990年代を、別の名で「グローバリゼーションの時代」という。正確には偽のグローバリゼーションを騙った時代というべきだ。
このアメリカによるグローバリゼーションが始まった1990年というのは、かの湾岸戦争が計画された年である。
 その後、クリントン政権はイスラエル・パレスチナに中東和平合意を結ばせ、アラブ・イスラエル間の対立を払拭してイスラエル製品を中東全域で買わせるような態勢をつくり、パレスチナにも小さな国家をつくってあげるという「オスロ合意」を旗印にした新興市場づくりに邁進していた。
これこそがグローバリゼーションの中東地域における狼煙の第一弾だった。

 この新興市場として浮上してきたひとつに中央アジア諸国があった。石油や天然ガスに富むカザフスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンなどで、ソ連があったころはロシア援助に頼っていたが、崩壊後はどこも中央アジアに力を出していなかった。アメリカはここに目をつけ、ロシア区域を避けるパイプラインを通したいと考えた。
 そうなるとラインは南進してイランかアフガニスタンを通ってペルシャ湾に向かうことになる。イランはイスラム革命以降は反米一色なので、残るはアフガニスタンである。
 ところがアフガニスタンにはムジャヘディン(聖戦士)によるゲリラ内戦が進行中で、司令官の私物化や女性レイプや金品強奪がまかりとおっている。ムジャヘディンはソ連・アフガン戦争のときにパキスタン(ブット首相)が支援したゲリラ戦士たちで、そのバックにはアメリカがいた。アメリカ=パキスタンは巧みにムジャヘディン7派を統一させないようにし、しかも有力派のラバニ派ではなく親パキスタンのヘクマディアル派をひそかに支援しつづけて、内部対立を煽った。1992年のことだった。

 しかしムジャヘディンの乱立は無節操に激しくなるばかりだったので、アメリカ=パキスタンはムジャヘディン内戦を内側から切り崩して突破できる青年戦士を募り、これを支援することにした。
 これが「タリバン」である。アラビア語で「学生たち」を意味するタリバンは難民キャンプで育ってイスラム神学校で学んだ青年と、その先生(聖職者)で構成された。
 こうして1994年11月、パキスタン西部アフガン国境の町クエタからタリバン兵士を乗せた30台のトラックが出発、行く先々で地元民を苦しめるムジャヘディンを打ち破って、1996年9月にはついに首都カブールを陥落したのだった。
 この作戦の背後に、アメリカの石油会社「ユノカル」が中央アジア→アフガニスタン→パキスタン→インド洋という天然ガスのパイプライン建設を計画していたというシナリオが動いていたことは、いまでは誰もが知っている。

 しかし、アメリカ=パキスタンにとっては予想のつかないことがおこった。
タリバンが厳格なイスラム原理主義にもとづいて顎髭を生やさせたり、ブルカを覆わない女性を逮捕したりしたことではない。そんなことはアメリカはまったく放置していた。そのころのアフガニスタンを知っている著者によると、タリバンは都市部には激しい強制をしていたようだが、農村部には甘かったようである。ともかくアメリカはそのころのタリバンを非難してはいなかったのである。
 アメリカがタリバンを警戒するようになったのは、オサマ・ビンラディンがタリバンに加わって反米テロを始めたことだった。ビンラディンがアフガンに入ったのは1996年春のことで、それからしばらくはアメリカはビンラディンをむしろ便利な指導者として眺めていたはずなのである。
 なにしろビンラディンはムジャヘディンがソ連と闘ったころに、そのアメリカ型のプロジェクトに協力した富裕な一族の御曹司だったのだ。

 著者は共同通信からマイクロソフトに移ってMSNジャーナルを立ち上げ、個人で国際ニュースをメール配信しつづけているフリー・ジャーナリスト。『神々の崩壊』(風雲舎)、『国際情勢の見えない動きが見える本』(PHP文庫)などの著書もあるが、なんといっても連日のニュース解説が壮絶だ。
 本書はその著書がアメリカによるアフガン攻撃が開始される前に書いたところがミソで、リアルタイムな迫真の追求感がよく出ている。とくにビンラディンがアメリカの背信にあってスーダンに追われ、さらにスーダンからアフガンに落ち延びて「アルカイダ」をテロ・ネットワークの拠点に再編成するまでの事情については、本書を読むまで何を読んでもわからなかったことだった。
 ジャーナリストとしてのカンは1998年8月に、ケニヤとタンザニアのアメリカ大使館が爆破されたときに全開したようだ。ぼくはカンは動かなかったし、ビンラディンのことも知らなかったが、このニュースを聞いたときは、不謹慎ながら胸のどこかに風がズドンと吹き抜けていったおぼえがある。

 それはともかくアメリカは、その2週間後にビンラディンが化学兵器を製造していると噂されていたスーダンの工場にミサイルを打ち込み、テロリスト養成をしているらしいアフガンのジャララバード近郊の基地を攻撃した。
 これでビンラディンとアメリカという、とんでもなく不釣り合いな戦闘事態の幕が切って落とされたのだ。
 他国の一区域に予告もなくミサイルを打ち込んだのはクリントンである。しかし、これは何の成果もなく、クリントンはビンラディン暗殺をCIAに指令、それもままならないと長期戦にもちこむことにした。つまりグローバリゼーションの戦略のなかにテロ戦争を正当化することに決めたのである。
 こうして、最初は国連を窓口として外交交渉をしようとしていたタリバンは、すべてを閉ざされる。代わって、かつてアフガン戦争やイラン・イラク戦争のときの拠点となっていた「アルカイダ」が戦士のOBネットワークとして機能をはじめ、それが反米テロ戦略の拠点となっていったのである。アルカイダとは「拠点」という意味だった。

 いま、アメリカはビンラディンの捕獲も暗殺もできないまま、ふたたびイラクに攻撃を仕掛けようとしている。
 これはもはやグローバリゼーションではありえない。グローバリゼーションは20世紀とともに反故になったというべきである。かつてイラクがイランに攻撃を加えて8年におよぶイ・イ戦争を開始したとき、アメリカがサダム・フセインをそそのかせてイラン侵攻に踏み切らせたのだったが、その逆を湾岸戦争でおこしながらもフセイン政権打倒に失敗したアメリカが、またもや同じ手口をつかってみたいというのだから、これは単にアメリカのアメリカのための“グロリア”ゼーション(!)にすぎない。
 いったいアメリカは何をしたいのか。ムジャヘディンをつくってムジャヘディンを潰し、タリバンをつくってタリバンを潰し、それでも潰れないフセインとビンラディンだけをターゲットに世界中を戦争に巻き込んで、何をしたいのか。
 本書にもふれられているのだが、われわれはもう一度、オスマントルコ帝国が圧倒的な支配権を発揮していた中東区域の国家と民族と宗教に立ち返って、アメリカのグロリアゼーションの死産を強調しておかなければならなくなったようである。
 そんなふうにいちいち歴史に戻るのが面倒だというのなら、世界中にひそむ「心の中のタリバン」を、北朝鮮もキューバも台湾も、アメリカの大学生もドイツの青年も日本の老人も、赤裸々に出しあってみるべきなのである。



参考¶ところで、この光文社新書のブックデザインは香港在住のアラン・チャンである。アラン・チャンはぼくが編集工学研究所のマークと“ORIBESQUE”のロゴマークを頼んだグラフィックデザイナーであるのだが、その後は東京でいくつもの茶房をプロデュースする辣腕家ともなっている。










 
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[目次]

1144

『海上の道』柳田国男

1143

『異装のセクシャリティ』石井達朗

1142

『日本人の自画像』加藤典洋

1141

『稲と鳥と太陽の道』萩原秀三郎

1140

『猿と女とサイボーグ』ダナ・ハラウェイ

1139

『カムイ伝』白土三平

1138

『江戸の枕絵師』林美一

1137

『ゲイ文化の主役たち』ポール・ラッセル

1136

『悪徳の栄え』マルキ・ド・サド

1135

『非常民の性民俗』赤松啓介

1134

『日本創業者列伝』加来耕三

1133

『市場の書』ゲルト・ハルダッハ&ユルゲン・シリング

1132

『女帝の手記』里中満智子

1131

『日本/権力構造の謎』上・下 カレル・ヴァン・ウォルフレン

1130

『多文明共存時代の農業』高谷好一

1129

『木村蒹葭堂のサロン』中村真一郎

1128

『江戸商売図絵』三谷一馬

1127

『性的差異のエチカ』リュス・イリガライ

1126

『インターネット資本論』スタン・デイビス&クリストファー・マイヤー

1125

『ボランティア』金子郁容

1124

『アヴァン・ポップ』ラリイ・マキャフリイ

1123

『笑いの経済学』木村政雄

1122

『ぼくの哲学』アンディ・ウォーホル

1121

『百物語』杉浦日向子

1120

『女性の深層』エーリッヒ・ノイマン

1119

『北条政子』永井路子

1118

『ネット・ポリティックス』土屋大洋

1117

『T.A.Z.』ハキム・ベイ

1116

『江戸の身体を開く』タイモン・スクリーチ

1115

『資本主義のハビトゥス』ピエール・ブルデュー

1114

『猫と小石とディアギレフ』福原義春

1113

『江戸の市場経済』岡崎哲二

1112

『田中清玄自伝』田中清玄・大須賀瑞夫

1111

『黒い花びら』村松友視

1110

『昭和という時代』鈴木治雄対談集

1109

『澄み透った闇』十文字美信

1108

『市場対国家』ダニエル・ヤーギン&ジョゼフ・スタニスロー

1107

『負ける建築』隈研吾

1106

『未来派』キャロライン・ティズダル&アンジェロ・ボッツォーラ

1105

『写真ノ話』荒木経惟

1104

『建築的思考のゆくえ』内藤廣

1103

『バイ・バイ・キップリング』ナム・ジュン・パイク

1102

『コンセプチュアル・アート』トニー・ゴドフリー

1101

『モダンデザイン批判』柏木博


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