二百九十夜【02902001年5月11日

Seigow's Book OS / DOOR
P・J・オローク
『ろくでもない生活』
1993 JICC出版局
P.J.O'Rourke : Pepublican Party Reptile 1987
山形浩生 訳
[表紙]『ろくでもない生活』
© JICC出版局
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オンライン書店 bk1
 アメリカにはこういうコラムニストがごろごろいる。アメリカ人ではないわれわれには、綴り方教室の悪い見本を読まされているようなものが多いのだが、なかに、これは日本人には絶対に書けないというものもある。
 オロークはそういうコラムニストの一人で、ベストセラーになった『モダン・マナーズ』はアンブローズ・ビアスの再来と評判だった。が、それはアメリカ人の見方で、ぼくには日本人が書けないというか、書かない非常識のセンスによって新たなアメリカン・コモンセンスをつくろうとしていると見えた。

 本書は原題をそのまま訳すと「共和党爬虫類派」という日本語になる。序文にオローク自身が「本書に収めたエッセイはすべて保守的な共和党の立場で書かれている」と宣告している。
 実際にも、オロークの家系はゴリゴリの共和党主義者だったようで、だからクリントン政権時代は文句たらたらだったのが、いまごろはジョージ・ブッシュの登壇に喜びつつも、かえってハラハラしているにちがいない
 というのは表向きのことで、本書を読めばわかるように「共和党爬虫類派」というのは、「もうどうでもいいや、くそったれ小泉純一郎万歳!」と言っているようなもの、まことに複雑に、かつ巧妙に新保守主義の「擬制感覚」とでもいうものをつくろうとしている仮の姿だとおもったほうがよい。

 昔ならこういうのをブラックジョークとかシニシズムと言った。けれども、オロークのような書きっぷりをそういう言葉でくくることはできない。
 日本でいえば全共闘世代や団塊の世代に似た特有の屈折した心情をもちながら、世の中の現象、高速道路の走り方からスパゲッティの食べ方を相手に全知全能を軽く駆使して評論してみせつつ、かつそのように観察できるような現象に生活マスターベーションしているアメリカ人に警告を発するという、手のこんだ嫌味によってカウンター・シニシズムに人々を誘おうという手法なのである。

 アメリカはかつては愛国心のためなら何でも許された。いまアメリカは安全のためなら何でも許す。これをオロークは「安全ナチ」と名付ける。
 なるほど、こんなふうに言われると、オロークがナチをちゃんと批判しているようにも見えるし、安全神話に狂乱しているアメリカ人を鎮静しようとしているようにも見える。しかし、それは上滑りなのだ。オロークはそう言いながら、愛国心を何によって表明するかも、安全を何によって守るかも、すべては相対価値でしかなく、政治を眺めるにあたっても、そういう相対価値を前提にしないかぎりは、どこがいいどこが悪いといったって、しょせんどうにもならないと考えているだけなのだ。
 けれども、ただそれを言いたかっただけかといえば、そこがオロークの手で、かつてのカール・クラウスや斎藤緑雨に似て、世の知識人による批評そのものを無化させてしまうことをこそ目論んでいるのだった。
 そして、そのような素振りを言葉でしてみせることが、表面から見えているアメリカとは異なったアメリカン・コモンセンスの実験なのでもあった。

 なお、本書の訳者の山形浩生は日本では珍しい翻訳文化感覚の持ち主で、コラムニストとしてもピリ辛をものしている。
 本書を訳した当時は、本職は東大の都市工を出てシンクタンクの野村総研に務めているリサーチャーだった。その後の職業は知らないが、週刊誌にも痛快な批評をしつづけている。日本にもオロークのようなコラムニストがしだいにふえているのであろう。

参考¶とくに勧める気はないが、もしオロークに関心がある向きには、3冊の日本語訳が出ているから紹介しておく。『モダン・マナーズ』(JICC出版局)、『おもしろモダン・マナーズ』(講談社文庫)、『楽しい地獄旅行』(河出書房新社)などである。








 






 

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千 夜 千 冊 BACK NUMBER

[目次]

1144

『海上の道』柳田国男

1143

『異装のセクシャリティ』石井達朗

1142

『日本人の自画像』加藤典洋

1141

『稲と鳥と太陽の道』萩原秀三郎

1140

『猿と女とサイボーグ』ダナ・ハラウェイ

1139

『カムイ伝』白土三平

1138

『江戸の枕絵師』林美一

1137

『ゲイ文化の主役たち』ポール・ラッセル

1136

『悪徳の栄え』マルキ・ド・サド

1135

『非常民の性民俗』赤松啓介

1134

『日本創業者列伝』加来耕三

1133

『市場の書』ゲルト・ハルダッハ&ユルゲン・シリング

1132

『女帝の手記』里中満智子

1131

『日本/権力構造の謎』上・下 カレル・ヴァン・ウォルフレン

1130

『多文明共存時代の農業』高谷好一

1129

『木村蒹葭堂のサロン』中村真一郎

1128

『江戸商売図絵』三谷一馬

1127

『性的差異のエチカ』リュス・イリガライ

1126

『インターネット資本論』スタン・デイビス&クリストファー・マイヤー

1125

『ボランティア』金子郁容

1124

『アヴァン・ポップ』ラリイ・マキャフリイ

1123

『笑いの経済学』木村政雄

1122

『ぼくの哲学』アンディ・ウォーホル

1121

『百物語』杉浦日向子

1120

『女性の深層』エーリッヒ・ノイマン

1119

『北条政子』永井路子

1118

『ネット・ポリティックス』土屋大洋

1117

『T.A.Z.』ハキム・ベイ

1116

『江戸の身体を開く』タイモン・スクリーチ

1115

『資本主義のハビトゥス』ピエール・ブルデュー

1114

『猫と小石とディアギレフ』福原義春

1113

『江戸の市場経済』岡崎哲二

1112

『田中清玄自伝』田中清玄・大須賀瑞夫

1111

『黒い花びら』村松友視

1110

『昭和という時代』鈴木治雄対談集

1109

『澄み透った闇』十文字美信

1108

『市場対国家』ダニエル・ヤーギン&ジョゼフ・スタニスロー

1107

『負ける建築』隈研吾

1106

『未来派』キャロライン・ティズダル&アンジェロ・ボッツォーラ

1105

『写真ノ話』荒木経惟

1104

『建築的思考のゆくえ』内藤廣

1103

『バイ・バイ・キップリング』ナム・ジュン・パイク

1102

『コンセプチュアル・アート』トニー・ゴドフリー

1101

『モダンデザイン批判』柏木博


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