二百四十九夜【02492001年3月14日

Seigow's Book OS / HERE
ジェローム・デュアメル
『世界毒舌大辞典』
1988 大修館書店
J r me Duhamel : Le Grand M chant Dictionnaire 1985
吉田城 訳
[表紙]『世界毒舌大辞典』
©大修館書店
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Tひと より
Tひと より



U趣味・文化 『印象派の画家たち』より
U趣味・文化 『印象派の画家たち』より



W思想 より
W思想 より



Y人物 『ユゴー(ヴィクトル)』より
Y人物 『ユゴー(ヴィクトル)』より
 
 だいたいこの手の箴言集はつまらないものか、一人よがりのものが多い。それでもアンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』を嚆矢として、読者の跡は絶たない。
 読者というものがお手軽を求めるせいであるとか、結局みんなスピーチのときに困っているせいだ、とばかりもいえない。このように世の名言というものは、つねに編集されてきた歴史をもつことによって、名言となってきたと言ったほうがいい。これがヘロドトスやプルタークでも同じこと、結局は誰かが誰かの言葉を採りあげ、これを編集してきたわけなのである。つまり箴言集とは思想史や文化史のフリーク・ショーなのだ。そう思って、こういう箴言集を眺めるとよい。
 しかし、もう少し別の見方もある。これを「編集稽古」の例題と見立てて遊んでしまうことである。2、3の"使用例"を紹介しておく。気楽に読まれたい。

 たとえば、この手のものには必ず登場するバーナード・ショーを例題にすると、この3段活用が編集術なのである。「良識を求めることができない人間には3種類ある。恋をしている男と、恋をしている女と、恋をしていない女だ」。
 ようするに「どんな女も良識では左右できない」とフェミニストが怒りそうなことを言っているのだが、それを3段活用でちょっとだけ煙に巻いた。こういう編集術は、1、2の3でもっていく。3がミソになる。これを2段活用で落とすと、こういうふうになる。「初めて女を薔薇に譬えた男は詩人だが、2番目にそれをした男はただの馬鹿である」(ジェラール・ド・ネルヴァル)。
 既存の論理や考え方に文句をつけたくなることは、誰にでもよくあることである。こういうときに、しゃにむに新しいことを言おうとしても歯がたたないことがある。とくに神や道徳や民主主義を批評するときだ。そういうときにポール・ヴァレリーが示した手が使える。「神は無からすべてを作った。ただし、元の無がすけて見えている」。これは神学の主張をそのまま使って裏返してみせたという編集術。もっとこれを素直な表現で言い換えると、こういうふうになる、「しかしそれにしても、天地創造の前に神は何をしていたのかね」(サミュエル・ベケット)

 言葉とか概念というものは、それを最初から提示したのでは、その重さにひっぱられてしまうものである。そこで、その言葉や概念を示す前に、別の入口を用意する。そういう編集術がある。
 この方法がやたらに得意なオスカー・ワイルドの例を紹介しておく。こういうものだ、「この世にはただひとつの恐ろしいこと、ただひとつの許しがたいことがある。それは退屈である」。ではもうひとつ、初級クラスのもの。「初めは並んで寝て、やがて向かいあい、それから互いに背を向ける。それが体位だ」(サシャ・ギトリー)。この「体位」を「愛」に変えることもできれば、日本の自公保ではないが、「連立政権」とすることもできる。
 言葉や概念も最初に規定をもたらすが、フレーズにも初期条件というものがひそんでいて、そのフレーズから始められると、ついつい次の推測が成り立ってしまうことがある。で、これを逆用するわけである。マルセル・パニョルがいつも使う手であるが、こんな例題ではどうか。「女と寝なかったのは、多くのばあい、頼んでみなかったからだ」。われわれは「女と寝る」「女と寝ない」というフレーズで勝手な推理の中に入ってしまうのである。

 ふつうに気持ちを表現すると、まずいときがある。こういうときに編集術がものを言う。ゴンクール兄弟は田舎に行くたびに退屈をしていた。なぜ、こんなところがいいのか理解不可能だった。そこで、こう書いた、「田舎では雨が気晴らしになる」。ハイ、座布団1枚。
 どれを褒めても、どれを貶(けな)しても、ぐあいが悪いときもある。こういうときは大岡裁判が必要だが、それをうまくはこべるにはちょっとした編集術が試される。アンリ・ド・レニエの名裁判を見てほしい。いったいどこを貶して、どこを褒めたのか。わかるかな。「フランス人は歌は調子はずれだが、考えることは正しい。ドイツ人は唄は正確だが、考えることは正しくない。イタリア人は考えないが、歌っている」。ハイ、座布団3枚!

 本書はもうひとつ、読み方がある。著者がフランス人であるために、ここにはフランス人の思考方法が手にとるように見えてくる。そこを読む。
 ついでに、そのぶん、フランス人が何を揶(からか)って文化をつくってきたのか、それがよくわかる。そういう読み方だ。ハイ、ご退屈さま。








 






 

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千 夜 千 冊 BACK NUMBER

[目次]

1144

『海上の道』柳田国男

1143

『異装のセクシャリティ』石井達朗

1142

『日本人の自画像』加藤典洋

1141

『稲と鳥と太陽の道』萩原秀三郎

1140

『猿と女とサイボーグ』ダナ・ハラウェイ

1139

『カムイ伝』白土三平

1138

『江戸の枕絵師』林美一

1137

『ゲイ文化の主役たち』ポール・ラッセル

1136

『悪徳の栄え』マルキ・ド・サド

1135

『非常民の性民俗』赤松啓介

1134

『日本創業者列伝』加来耕三

1133

『市場の書』ゲルト・ハルダッハ&ユルゲン・シリング

1132

『女帝の手記』里中満智子

1131

『日本/権力構造の謎』上・下 カレル・ヴァン・ウォルフレン

1130

『多文明共存時代の農業』高谷好一

1129

『木村蒹葭堂のサロン』中村真一郎

1128

『江戸商売図絵』三谷一馬

1127

『性的差異のエチカ』リュス・イリガライ

1126

『インターネット資本論』スタン・デイビス&クリストファー・マイヤー

1125

『ボランティア』金子郁容

1124

『アヴァン・ポップ』ラリイ・マキャフリイ

1123

『笑いの経済学』木村政雄

1122

『ぼくの哲学』アンディ・ウォーホル

1121

『百物語』杉浦日向子

1120

『女性の深層』エーリッヒ・ノイマン

1119

『北条政子』永井路子

1118

『ネット・ポリティックス』土屋大洋

1117

『T.A.Z.』ハキム・ベイ

1116

『江戸の身体を開く』タイモン・スクリーチ

1115

『資本主義のハビトゥス』ピエール・ブルデュー

1114

『猫と小石とディアギレフ』福原義春

1113

『江戸の市場経済』岡崎哲二

1112

『田中清玄自伝』田中清玄・大須賀瑞夫

1111

『黒い花びら』村松友視

1110

『昭和という時代』鈴木治雄対談集

1109

『澄み透った闇』十文字美信

1108

『市場対国家』ダニエル・ヤーギン&ジョゼフ・スタニスロー

1107

『負ける建築』隈研吾

1106

『未来派』キャロライン・ティズダル&アンジェロ・ボッツォーラ

1105

『写真ノ話』荒木経惟

1104

『建築的思考のゆくえ』内藤廣

1103

『バイ・バイ・キップリング』ナム・ジュン・パイク

1102

『コンセプチュアル・アート』トニー・ゴドフリー

1101

『モダンデザイン批判』柏木博


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