夜【01002000年7月27日

Seigow's Book OS / WEAR
澤田隆治
『上方芸能列伝』
1996 文春文庫

[表紙]『上方芸能列伝』
©文藝春秋

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花菱アチャコ(左)、横山エンタツ(右)

花菱アチャコ(左)、横山エンタツ(右)



「スチャラカ社員」出演の花菱アチャコ(中央)

「スチャラカ社員」出演の花菱アチャコ(中央)



「スチャラカ社員」出演の横山エンタツ(右端)

「スチャラカ社員」出演の横山エンタツ(右端)




“ぼやき漫才”の元祖・都家文雄

“ぼやき漫才”の元祖・都家文雄



PCL撮影所にて 左より高瀬実乗、エンタツ、林正之助、アチャコ

PCL撮影所にて 左より高瀬実乗、エンタツ、林正之助、アチャコ
 
 大阪商船に勤める父をもつ澤田隆治は昭和30年に朝日放送に入社して、ひたすらお笑いの道をプロデュースしてきた。藤田まことの「てなもんや三度笠」、ダイマル・ラケットの「スチャラカ社員」、数々の芸人を網羅した「花王名人劇場」は、その代表番組である。
 その澤田のテレビ時代の工夫の数々もむろんおもしろいのだが、澤田が見てきた上方芸人の動態やそれに対する冷めた見方はもっとおもしろい。

 どこがおもしろいかというと、たとえばの話、澤田は昭和21年の13歳のときにエンタツ・アチャコを『東京五人男』(斎藤寅次郎監督)で見るのだが、初めて見るエンタツ・アチャコの笑いよりも古川ロッパの印象が強烈で、いまもってエンタツ・アチャコのシーンが思い出せないという。その感想をもって、エンタツ・アチャコの歴史に入っていく。
 そうすると、ふつうは見えてこないエンタツ・アチャコが見えてくる。秋田実がエンタツを担当し、そのため長沖一がアチャコのラジオ番組、これはぼくも子供のころのたのしみだったのだが「アチャコ青春手帳」「お父さんはお人好し」などを担当することになったことに、その後のエンタツ・アチャコの芸の分かれがあったというような視点である。こういう見方はおもしろい。
 なぜなのか。そこからダイマル・ラケットも見えてくるからだ。ダイマルはエンタツに憧れて芸人になった漫才師である。ということは、よくよく見るとダイマルの動きにはエンタツがいるということなのだ。

 本書は、そうした上方芸人の“知財カタログ”の趣きをもっている。
 花菱アチャコの秘密は色気である。その体には長谷川一夫が棲んでいる。そのアチャコは曾我廼家五郎に傾倒していた。ということは、アチャコの作劇感覚は五郎の踏襲なのである。澤田はアチャコによってテレビのお笑いの演出を教えられたという。

 もうひとつ例をひく。
 上岡龍太郎はなぜ東京で売れたのか。上岡は大阪と東京のギャップを利用した。大阪では上岡の人気は、ちょうど反対の極にいる坂田利夫とはくらべものにならないほど、低い。アホの坂田が目いっぱいのサービスで笑いをとっているのに対し、カシコの上岡はサービスしないことを売りものにする。相手がサービスしても、それを断ち切るようなところがある。
 これはたいして大阪ではウケない。ところが東海道を東へ東へ進んだ東京の文化というものは大阪とちがって、気取っている。そこで、そのころコテコテの大阪弁まるだしだった板東英二・笑福亭鶴瓶・島田伸助の相手として東京にあらわれた上岡は、そのヘソまがりぶりでウケたのだ。実は上岡龍太郎一人では、誰も見向きもしなかったはずなのである。
 このように見てくると、上岡龍太郎は上方芸能の何かを喪失することで東京でウケたということになる。その喪失したものは何か。それが「ボヤキ」というものなのである。
 ボヤキの元祖は都家文雄である。ついで人生幸朗がこれを継いだ。風刺をしながらボヤいてみせる。そこには攻撃はない。そのボヤキを忘れて上岡龍太郎は東京で成功をした。まあ、そんなふうに澤田の目は読んでいくわけである。

 本書でぼくが知らなかったのは、高田浩吉のことだった。澤田は高田浩吉にかなりの思い入れがあるらしく、そうとうの資料を集めて高田分析にのぞんだらしいのだが、あとがきによるとその十分の一も書けなかったらしい。それでもぼくには珍しい。
 詳しいことは省くけれど、どうやら「てなみんや三度笠」で藤田まことを抜擢できたのは、美男俳優・高田浩吉のパロディだったようだ。そうか、なるほどと膝を打つ話だ。
 そのほか、本書ではミスハワイ、ルーキー新一(天才的なコメディアンだったらしい)、吉本興業会長の林正之助、正司敏江・玲児、曾我廼家五郎八、横山やすし・きよしがフィーチャーされる。いずれも、ぼくが知らなかったエピソードに満ちていて、笑いが尋常ではない苦悩によって生まれていることを知らされた。








 






 

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千 夜 千 冊 BACK NUMBER

[目次]

1144

『海上の道』柳田国男

1143

『異装のセクシャリティ』石井達朗

1142

『日本人の自画像』加藤典洋

1141

『稲と鳥と太陽の道』萩原秀三郎

1140

『猿と女とサイボーグ』ダナ・ハラウェイ

1139

『カムイ伝』白土三平

1138

『江戸の枕絵師』林美一

1137

『ゲイ文化の主役たち』ポール・ラッセル

1136

『悪徳の栄え』マルキ・ド・サド

1135

『非常民の性民俗』赤松啓介

1134

『日本創業者列伝』加来耕三

1133

『市場の書』ゲルト・ハルダッハ&ユルゲン・シリング

1132

『女帝の手記』里中満智子

1131

『日本/権力構造の謎』上・下 カレル・ヴァン・ウォルフレン

1130

『多文明共存時代の農業』高谷好一

1129

『木村蒹葭堂のサロン』中村真一郎

1128

『江戸商売図絵』三谷一馬

1127

『性的差異のエチカ』リュス・イリガライ

1126

『インターネット資本論』スタン・デイビス&クリストファー・マイヤー

1125

『ボランティア』金子郁容

1124

『アヴァン・ポップ』ラリイ・マキャフリイ

1123

『笑いの経済学』木村政雄

1122

『ぼくの哲学』アンディ・ウォーホル

1121

『百物語』杉浦日向子

1120

『女性の深層』エーリッヒ・ノイマン

1119

『北条政子』永井路子

1118

『ネット・ポリティックス』土屋大洋

1117

『T.A.Z.』ハキム・ベイ

1116

『江戸の身体を開く』タイモン・スクリーチ

1115

『資本主義のハビトゥス』ピエール・ブルデュー

1114

『猫と小石とディアギレフ』福原義春

1113

『江戸の市場経済』岡崎哲二

1112

『田中清玄自伝』田中清玄・大須賀瑞夫

1111

『黒い花びら』村松友視

1110

『昭和という時代』鈴木治雄対談集

1109

『澄み透った闇』十文字美信

1108

『市場対国家』ダニエル・ヤーギン&ジョゼフ・スタニスロー

1107

『負ける建築』隈研吾

1106

『未来派』キャロライン・ティズダル&アンジェロ・ボッツォーラ

1105

『写真ノ話』荒木経惟

1104

『建築的思考のゆくえ』内藤廣

1103

『バイ・バイ・キップリング』ナム・ジュン・パイク

1102

『コンセプチュアル・アート』トニー・ゴドフリー

1101

『モダンデザイン批判』柏木博


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