九十八夜【00982000年7月25日

Seigow's Book OS / WEAR
ロバート・ホワイティング
『和をもって日本となす』上・下
1992 角川文庫
Robert Whiting : You Gotta Have WA 1989
玉木正之 訳

[表紙]『和をもって日本となす』 上

[表紙]『和をもって日本となす』 下

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 20世紀最後の年だというのに、阪神タイガースに鳴り物入りで入ったタラスコもハートキーも、途中から日ハムから貰い受けたフランクリンも、まったく活躍しない。阪神から巨人に移ったメイは阪神を手玉にとっている。まったく腹立たしいことだ。
 ガイジン選手。日本のプロ野球にとってガイジン選手の当たり外れほど、その球団のシーズン運命を左右している出来事はない。けれども実際には、ガイジン選手の浮沈は表立っての話題にはならない。デストラーデ、ブライアント、バースなどの例外を別にして、たいていは“消耗品”扱いされている。
 ただし、巨人のばあいは、つねに法外な話題になってきた。ダメ・ジョンソンといわれた大リーガーが長嶋との宿命の対立をして以来ずっと、巨人のガイジン選手はクロマティにしてもガルベスにしても、良くも悪くも大問題になるようになったのである。

 いったい日本のプロ野球はどういうルールでやっているのか、球場でおこっていることは「野球」なのか「日本」なのか。
 こういう疑問は日本に訪れて帰っていった多くのガイジン選手によって、何十回となく囁かれてきた。それほど、日本プロ野球の本質はガイジン選手の目には異様に映ってきた。曰く練習のしかた、曰くペース配分、曰くフォーム改造、曰く作戦の立て方。いったい日米どちらの言い分がまともなものなのか。
 そこで本書の著者ロバート・ホワイティングが敢然と立ち上がったのである。著者は日本人を奥さんにもつ在日ジャーナリスト。なにしろガイジンから本音の話が聞けるところが強い。また、日本の謎を解きたいと真剣におもっているところが強い。
 たとえば、それまでまずまずのピッチングをしていた日本人のピッチャーがホームランを打たれて敗戦したとする。そのピッチャーは試合後のインタビューに答えて「ぼくの一番のまっすぐで勝負しましたから、いいんです」と言う。監督もコーチも解説者も「あれはしかたがない。いい度胸ですよ」と言う。ところが、これがガイジン選手にはわからない。だって、彼は打たれたのである。自分の得意のボールを投げようとも、単に打たれたのだ。それが日本人のあいだでは「度胸がよかった」という美談になっていく。
 なぜ、こんなふうになるのか。何が日本人とガイジン選手とのちがいなのか。それは日本とアメリカのちがいなのか。野球は野球ではないのか。ホワイティングはその疑問に答えるべく立ち上がったのである。

 ホワイティングには、すでに『菊とバット』『日米野球摩擦』『ニッポン野球は永遠に不滅です』といった著書がある。つまりホワイティングは日本野球に日本文化の本質を嗅ぎとるために著述活動をしているような変な人物なのである。
 しかし、それまでの本にくらべると、本書ほど全米で話題になった本はなかった。ニューヨーク・タイムスが「日米貿易摩擦の口論を中断して、書店に走ってこの本を買うべきだ」と書いたのをはじめ、本書は日米の貿易摩擦どころか、日米間によこたわるいっさいの社会文化問題の教科書のように取り沙汰され、売れに売れまくったのだ。
 もっとも、このようなアメリカ人によくわかる日本人論の本が、日本でウケるとはかぎらない。ぼくがアメリカにいたとき、ちょうどマイケル・クライトンの『ライジング・サン』が話題になっていたが、日本に帰ってみると、この本はまったく無視されていた。所変われば品変わるというけれど、まさにそんなもんなのだ。

 正直に見て、この本は「きっと日米間のコミュニケーション・ギャップを解消してくれる」とアメリカ人が騒いだほどの効果は日本では期待できないにしても、日本人がぜひとも読むべき本である。
 キーワードは「和」に対する理解の仕方というもの、本書はそこを日米両側の野球選手のインタビューや事例を次々にくりだし、なんとか浮き彫りにしようとしてくれている。
 読んでいくうちに、こういうことこそ日本人が取り組んで解明に乗り出すべきではなかったかという気にさせられる。プロ野球のとんでもない内幕がごっそり紹介されているのが、かえっておもしろいかもしれない。








 






 

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千 夜 千 冊 BACK NUMBER

[目次]

1144

『海上の道』柳田国男

1143

『異装のセクシャリティ』石井達朗

1142

『日本人の自画像』加藤典洋

1141

『稲と鳥と太陽の道』萩原秀三郎

1140

『猿と女とサイボーグ』ダナ・ハラウェイ

1139

『カムイ伝』白土三平

1138

『江戸の枕絵師』林美一

1137

『ゲイ文化の主役たち』ポール・ラッセル

1136

『悪徳の栄え』マルキ・ド・サド

1135

『非常民の性民俗』赤松啓介

1134

『日本創業者列伝』加来耕三

1133

『市場の書』ゲルト・ハルダッハ&ユルゲン・シリング

1132

『女帝の手記』里中満智子

1131

『日本/権力構造の謎』上・下 カレル・ヴァン・ウォルフレン

1130

『多文明共存時代の農業』高谷好一

1129

『木村蒹葭堂のサロン』中村真一郎

1128

『江戸商売図絵』三谷一馬

1127

『性的差異のエチカ』リュス・イリガライ

1126

『インターネット資本論』スタン・デイビス&クリストファー・マイヤー

1125

『ボランティア』金子郁容

1124

『アヴァン・ポップ』ラリイ・マキャフリイ

1123

『笑いの経済学』木村政雄

1122

『ぼくの哲学』アンディ・ウォーホル

1121

『百物語』杉浦日向子

1120

『女性の深層』エーリッヒ・ノイマン

1119

『北条政子』永井路子

1118

『ネット・ポリティックス』土屋大洋

1117

『T.A.Z.』ハキム・ベイ

1116

『江戸の身体を開く』タイモン・スクリーチ

1115

『資本主義のハビトゥス』ピエール・ブルデュー

1114

『猫と小石とディアギレフ』福原義春

1113

『江戸の市場経済』岡崎哲二

1112

『田中清玄自伝』田中清玄・大須賀瑞夫

1111

『黒い花びら』村松友視

1110

『昭和という時代』鈴木治雄対談集

1109

『澄み透った闇』十文字美信

1108

『市場対国家』ダニエル・ヤーギン&ジョゼフ・スタニスロー

1107

『負ける建築』隈研吾

1106

『未来派』キャロライン・ティズダル&アンジェロ・ボッツォーラ

1105

『写真ノ話』荒木経惟

1104

『建築的思考のゆくえ』内藤廣

1103

『バイ・バイ・キップリング』ナム・ジュン・パイク

1102

『コンセプチュアル・アート』トニー・ゴドフリー

1101

『モダンデザイン批判』柏木博


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