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 【1月29日】

 

 カーリダーサが叙事詩『クマーラサンバヴァ』(クマ―ラの誕生)において女神パールヴァティの美を称えた一句である。グプタ朝がインドを支配してきた仏教王朝を北方に追いやりヒンドゥ-―文化を復興したとき、カーリダーサはヴェーダ、ウパニシャッドなどのサンスクリット文学を翻案して、いわばインドのルサンスを飾った。インドのシェークスピアといわれる由縁である。それは文体においてカーヴィア体として現代インド文学におよぶ影響を与えたが、新たなヒンドゥー神学を形成する基礎ともなる。アサンガ(世親)が唯識論を、ヴァスバンドゥ(無着)が倶舎論を構想したころだった。
 『クマーラ・サンヴァバ』はシヴァとパールバティが結婚して、クマ―ラ(カールティケーア、スカンダ)が生まれ神界の秩序を守ったという新しい神話を、パールヴァティを主人公に歌いあげる。
 シヴァはこのヒンドゥー文化の転換期に確立した神である。ヴェーダにインドラを助けて活躍するアスラ族のマルト神群(暴風雨神)を率いたルドラが火と戦闘の神アグニなどと習合しながら、インダス文明いらいのコブ牛やリンガの信仰を吸い上げて出現してきた。その性格はモンスーンの暴風雨の二面性をそなえる。魔神を退治し信仰を失う世界を破壊する神でありながら、慈雨と豊穣をもたらし帰依するものに望みの恩寵を与える。シヴァはヒマラヤの身体的表現でもあり、時のはじめの新月をかざし天の川に連なるガンジスを頭頂に支え、雷神の象徴の三叉戟をもち聖牛ナンディに乗る。
 この荒ぶる神は愛妻サティが不幸な自死をとげてからは、ヒマラヤのカイラーサ山にこもって瞑想する厳格な行者となった。神々はサティを憐れみ、ヒマラヤの山神の娘パールバティとして再生させる。パールバティはシヴァを慕うが、シヴァはまったく心を乱さない。そこにとんでもないことがおこった。創造神ブラーフマンはさまざまな魔神をつくったが、アスラ族のターラカにシヴァの子いがいのだれにも敗北しないという魔力を与えていた。
 ターラカは神々の園を荒らして神妃を奪い、天の川の蓮をすべて採り、メール山を引きぬいて宮殿に飾った。どんな神がいどんでも勝てない。こういう“創造”に対するヒンドゥー思想の背景はおもしろい。神や人間の立場や利害などとは関係のない“根源的創造”が想起されている。毒草、害虫、病原菌といったって、それは自然全体の調和にとって必要にちがいなく、神々や人間の増殖だって自然からすれば害毒かもしれない。魔神といっても、それは神や人間から見れば魔神であるにすぎない。
 ブラーフマンは神々の訴えを聞いて、しぶしぶターラカの弱点を教えた。ターラカを倒す方法はシヴァとパールヴァティを結婚させるよりほかにない。そこで神々の王インドラは愛の神カーマを派遣した。パールヴァティがシヴァに蓮花を捧げたとき、カーマは愛の矢を放つ。気配を感じたシヴァは第三の眼から光を放ってカーマを焼き殺した。けれどもシヴァはパールヴァティの真心を知り二人は結婚する。とはいえ二人をまぐわせることなど神々といえどもできない。そこでアグニがシヴァの血を盗み、パールヴァティの姉カンガー(ガンジスの女神)に移して、スバルの六星に由来する六面六臂の軍神、孔雀に乗ったクマ―ラが誕生する。こうしてクマ―ラはターラカをたちまち滅ぼしてしまう。
 カーリダーサと後続の詩人によるクマ―ラの誕生物語は、神々の秩序を維持した功名を理想の女性パールヴァティの美の力に帰す。このパールヴァティへの讃歌はインドの各地にひそむ女神たちをよびさまし、それらをパールヴァティの変身とみなす物語の再編をうながした。ガンジスにあらわれたパールバティから出現したシヴァ・カウシキーは水牛の姿をした魔神マヒシャを殺す女神ドゥルガーとされ、ドゥールガーがライオンの背に乗って、魔神シュムとニシュバと戦ったとき、その黒ずんだ怒りの顔からカーリーが生まれたとされる。
 かつてはインドラやアグニらの男神のものだった戦闘を美貌の女神たちが戦いはじめた。このようにして数百数千の女神ネットワークが浮上するが、それらの女神はデーヴィー(大女神)のあらわれとみなされるようになる。このデーヴィを根源とする女神ネットワークがヒンドゥー文化圏となった。
 デーヴィーはシヴァの妃パールヴァティ(ウーマ)が化現した女神群だったが、ブラーフマンの言葉を司る女神サラスヴァテーやヴィシュヌの妃ラクシュミーの多様な変身をもふくめて、デーヴィーの哲学的大統合がおこっていく。このころ、インドはグプタ朝が崩壊し、群雄割拠の戦乱期に入っていた。
 このデーヴィーの源泉はデーヴァたる男神群の“行為”を生み出す“シャクティ”(力)とされるにいたる。そこにデーヴァ(男性性)とデーヴィー(女性性)が合体して神となるタントラが構想された。その先駆けがシヴァの自死した妻サティを切り刻んで各地に葬った墓所(シャクティピータ)におこなわれた「尸林の集会」である。
 この墓所につかえる神女はパールヴァティのシャクティとされたドゥルガーの化身カパリーニとみなされ、特定の夜に飲酒歌舞して、墓所を守るシヴァの化身ヴァイラバとみなされるシヴァ行者と性的瑜伽を行じて行者とシヴァ神との一体化をはたそうとする。そこに初期的なシヴァ教派が形成されてくる。同様の儀礼は仏教にもとりいれられ、ダーキーニー(あるいはヨーギーニー)たちが狂宴の後、瑜伽行者と交わって成仏をはたそうとした。これは戦乱時代の共同体を守る戦闘力の源泉ともなった。しかし、これを左道としてさける動向から、仏教的タントラはインド言語哲学を陶冶して真言密教に、シヴァとパールヴァティのタントラはインド神話を倫理化してシヴァ教に昇華されていく。




 

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