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 【1月8日】

 

 この墓碑銘の逸話がアーサー王の新たな伝説を生み出した。
 その墓碑は、北海を渡ったいにしえの民が、戦いに死んだ勇者を帆舟に乗せて送った常世に見たてた、大ブリテン島サマセット州アヴァロンのグランストベリ修道院のいしずえの下にあるという。
 そこはアーサー王が息をひきとった地でもあったが、伝説の墓碑が黄金なのか、青銅なのか、あるいは石なのかさえ知られない。
 アーサー王の物語をイングランドの騎士たちが忘れて久しくなったころ、ランカスター家のヘンリー4世が幽閉をのがれて、百年戦争の余燼を残すフランスに出征中のヨーク家のエドワード4世に反旗をひるがえす。ここに薔薇戦争がはじまった。
 エドワード4世にしたがっていた騎士トマス・マロリーは、フランスからイギリスに攻めかえしたとき、この事態は何かに似ていると感じた。それはアーサー王の最後の戦いであった。
 アーサー王のような盟主にめぐりあえなかった騎士は、ヨーロッパに飛散した英雄アーサーの物語をかき集め、王の生涯にしたがって綴りあわせる。その最後に、「過去の王にして、未来の王」という謎めいた墓碑銘の逸話を加えた。この一句が、時をこえて黄金期を再興しつづけようとする騎士道のヴィジョンをつないぎとめたといってもよいほどであろう。
 アーサー王物語の原型は、フレーザー卿が『神樹篇』に再現したケルトのオークを守る王にある。ケルト系ブリトン人の島、ブリタニアに進出した古代ローマ人は、オーク神ブルートが若き神に追放され、西海のはての島に眠るという神話にであった。歴史家プルタルコスは『英雄列伝』に、オーク神ブルートをクロノス、若き神を西方の海の彼方、黄金の林檎が茂るエリュシオンに父クロノスを流したゼウスとし、ブリトン人を黄金期の王者クロノスの末裔と記す。
 黄金期の王クロノスがなりかわったアーサー王は、クロノスとゼウスの物語の原型をうけづぎ、実の息子モルドレッドと戦いに瀕死の重傷を負う。そして、その遺骸は西方の海に帆舟で海に流され、常世アヴァロンに流れついた。そこはエリュシオンと同じく林檎の樹が茂り、その樹のもとに横たえられたアーサー王は、王の威力を支える魔術師マーリンの力をそいだ魔女モルガン・ル・フェイの治療をうける。魔女は魔法医術書を参照して、アーサーを次の再生のときまで、深い眠りにつかせた。
 この拡大された物語では、アーサー王は時間の神でもあるクロノスの末裔にふさわしく、キリスト教の神が時間の終焉に定めた破滅への一直線の歴史を、神がよみする騎士たちの糾合によって遅延させる王者という魅惑的なイメージをおびる。そのとき、魔術師マーリンと魔女モルガンはアーサー王の誕生から死への時間を動かす働きを付与された。
 円卓の騎士の統率が乱れれば乱れるほど、マーリンはモルガンに蠱惑され幼児化する。魔術師と魔女は絶対神がしかけた時計の脱進機の一対の振動子のように作動し、アーサー王の避けることのできない誕生と死と再生を円環に結んだ。そして、ヨーロッパに英雄的な人物が出現するたびに、アーサー王の再来ではないかと期待させたのである。




 

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