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 【12月21日】

 

 彼というのはゼウスである。ウラノス(天)とガイア(地)は添い寝して、世界の山海河川、風雨霧虹、巨神族、人間、諸生物などを生んだ。巨神族の王者クロノス(時)の子ゼウスは巨神の争乱を平定して、オリンポスの主神として君臨する。
 クロノスの弟イアペトスはオケアノス(大洋)の娘クリュメネと一緒になって、プロメティウスを生んだ。その兄弟には、世界を肩に担うアトラスや傲慢ゆえにエレボス(幽冥界)に落されたメノイティオス、人間にわざわいをもたらす結婚をしたエピメティウスがいる。
 そのころ、人間は石器を使い、生肉を食い、洞窟に凍えて暮らしていた。プロメティウスは人間に火を与えようとするが、ゼウスは「人間はこのまま不幸を知らなければ永遠に幸せだろう。それに人間に火を与えれば、神々の世界を侵すだろう」といって許さなかった。
 それでも、プロメティウスは策を労して人間に火を与えた。オリンポス山から下界を見晴らしたゼウスは点々と輝く火を見て、人間に火が与えられたことを知る。そこで、不死のプロメティウスを岩にしばりつけ、禿鷹にその臓腑を食わせつづけるというむごい刑を課した。
 さらにゼウスは、奇妙な贈り物によって人間に火の代償を払わせる。その贈り物とは工匠ヘパイストスが土くれから作った女で、その土偶にアテネは智恵、アフロディテは美貌、アポロは治癒力、デメテルは造園術、アルテミスは月の秘密、ポセイドンは変身力、ヘルメスは金の箱を与えた。こうして、神々も人間も魅惑されるパンドラが誕生した。
 パンドラはゼウスの策謀によってエピメティウスと結婚する。これを起原とする結婚というものは、ゼウスに反抗する巨神族と人間を縛る巧妙な処罰でもあった。
 そして、神々の思惑どおり、好奇心あふれるパンドラはヘルメスがくれた金の箱を開けた。そこから奇怪な姿のあらゆるわざわいが出てきて、最後に「希望」があらわれたので、人間は生きるよすがをえたというのは後世の俗説である。
 じつはパンドラは恐ろしさのあまり、その箱を閉じた。そのとき、箱の中に「予兆」が取り残された。そのために人間はわざわいを察知できない。けれども、もし「予兆」がパンドラの箱から出てきていたら、人間はおしよせつづける避けがたいわざわいを予知して、絶望のあまり死にたえただろうという。こうして、「予兆」があの金の箱に閉じ込められたからこそ人間は存続できたが、火の代償であるわざわいを甘受するしかないのだった。
 それでも、人間が求めつづける予測の科学は、パンドラの箱に残された最終的なわざわいに触れようとするものなのか。それにしても、ギリシアの神々のパンドラつくりほど、アイロニーに満ちた造作はめったにない。




 

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