|
|
|
| 【12月14日】 |
 |
|
 |
|

|
第三共和制時代のフランスである。スワンはサン・トゥーヴェルト公爵夫人の晩餐会の後、ゲルマント夫人の夜会に出た。そこで、ドレフュース事件を背景にしながら、ゲルマント夫人とユダヤ人問題をめぐって応酬がはじまる。
そのやりとりの中で、スワンの脳裏に、犬に助けられて龍退治したロードス騎士団長コゾン(後のマルタ騎士団)のイメージがひらめく。その犬のイメージは、エジプトの犬狼神アビヌスに直結し、「龍退治の吠えるアビヌス」という一つのフレーズになって、思わず口をついて出た。
才気煥発な夫人は、コゾンの龍退治はヴェネチア、フェラーラおよびイングランドの守護聖人、ローマ帝国軍人としてパレスチナを制し、そこに十字架を立てた聖ゲオルギウスの龍退治とは比較できても、その犬ははたしてアビヌスなのかと問いかえした。
もちろん、その指摘は適確で、アビヌスはロードス騎士団長の龍退治とはまったく関係がない。けれども、スワンはその連想がおこった背景について、なぜか言葉をにごして答えない。
スワンは夫人にロードス島で発掘したコインと発掘写真を贈る約束をしていた。そのコインに騎士団の象徴とともにほどこされた犬のイメージがアビヌスを連想させたのか。
ところで、もしスワンがイメージした「龍退治」が、聖ゲオルギウスをパトロンにガーター勲章を制定したほどのイギリスを想定した連想であったとしたら。
このころ、イギリスはインドを制圧して、アフガニスタンにロシアの南下を防ぎ、トルコ帝国からのエジプト独立を支援してアラブをかりたて、パレスチナへの野望をあらわす。
エジプトの独立に刺激されたクレタの反乱にトルコが出兵し、ロードス、バルカンが動揺する。そこにドレフュ―ス事件が複雑に展開して、ある戦略的な構図にはまっていく不安を打ち消すことはできない。
もちろん反ドレフュース派にして、フランス貴族の復活を後押ししたイギリスを親密に感じる夫人を前に、スワンはドレフュース派に転じたことやイギリスへの疑いなど億尾にも出せない。とすると、アビヌスの連想はといえば、イギリスと同調するエジプトであろう。
そのエクリチュールはロードス島に犬のコインがありそうにないのと同じくらい空想的だというむきもあろうけれど、そのようなイメージの筋書で読めば、今日の龍がどこに求められたかは、お察しのとおりである。 |
|
|
 |
|
|