〜第一祭「数寄になったひと」
7月22日(土)、銀座・時事通信ホールで、「連塾」の第2期<絆走祭(はんそうさい)>が始動した。(「連塾」についての説明はこちらの「椿座」の記事をご覧ください)
朝から会場に入って準備を始めたスタッフは、なんと総勢80人。演出は、連塾の第一期から引き続き藤本晴美さんが担当し、開演ギリギリまでスタッフに指示を飛ばした。
180人を越す来場者が訪れ、開演時刻の13時30分にはほぼ全ての座席が埋まった。まだ舞台の照明も点かない中、おもむろにスクリーンが下りてくる。少し間をおいて舞台両端から白い紙の帯が上がる。照明が左右の紙の帯をピンポイントで照らすと、左に「数寄」、右に「絆走」の文字。松岡の渾身の書である。そして中央スクリーンに第一祭のテーマ「数寄になったひと」が現れ、松岡が舞台に登場した。
「“絆”という字は、何本もの紐を結び合わせる、という意味があります。たくさんの人と絆を結び合わせて、走って行きたい」。
松岡は書を眺めながら、“絆走”の字に込めた思いを述べた。


■数寄と落語と「千夜千冊」
<絆走祭>にちなんで、まず初めに「近江八幡左義長まつり」「先帝祭」など、日本各地の祭りの映像を次々にスクリーンに映し出しながら、講義を始めた。舞台上の黒板に“擬死再生”“寄物陳思”など、耳慣れない四字熟語を書きながら、解説を入れる。
祭りの次は、今回のテーマ“数寄”について語る。まずは自著「日本数寄」の一節を取り上げ、自身の“数寄”への考え方を述べ、その途中で触れた遠州流茶道の映像を流した。さらに、坂東玉三郎の歌舞伎衣裳と、忌野清志郎のライブ映像で、数寄感覚と「傾(かぶ)き」「風流(ふりゅう)」とのクロス関係を見せる。何十本も花を頭に挿して「まぼろし」を歌う忌野清志郎の姿に、目頭が熱くなった人が多かったという。
続いて、連塾ではお馴染みとなった慶応義塾大学の金子郁容教授が登壇。「このまま日本文化がなくなってしまうのではないか」など、率直な疑問を松岡にぶつけた。事前に、壇上での質問をいくつか用意しておいたが、先ほどまでの映像を見て、がらっと質問が変わってしまったという。
2人の軽妙なトークが続いた後、落語家の柳家花緑さんを壇上に招く。日本の「間」の感覚についてしばし話を続けたあと、花緑さんを残して金子さんと松岡は降壇。突然花緑さんが振り返り、祖父の柳家小さん師匠と一緒に写る、幼少の花緑さんの写真がスクリーンに投影されると、すかさず祖父を「スターウォーズのヨーダ」と紹介して会場の爆笑を誘った。
「座布団がなく、立っているので手の置き所にも困る」と、高座との「間」の違いに少々戸惑いながらも、「落語界のイチロー」と松岡が評した通り、縦横無尽に即興落語を繰り広げた。


再び松岡ソロ講義へと戻り、今度は「千夜千冊」の一節をスライドで映写し、読み上げながら講義する形式を取った。前半は子供の頃から心に馴染んでいった、「3つの数寄」について語る。1つ目は与謝蕪村『蕪村全句集』(第850夜)で、観世流の謡いとともに習わされたという“俳句”に触れる。2つ目は実家が京都の呉服屋で、いつも見ていた“着物”にちなんで、幸田文『きもの』(第44夜)を紹介。最後の3つめに、村松梢風『本朝画人傳』(第964夜)を取り上げ、英一蝶らの名画も一緒にスクリーンに映しながら、日本画家の叔父に影響を受けたという“日本画”について語った。
後半は、中央最前列の席に招待した4人の「数寄になった人」、杉浦康平さん(第981夜『かたち誕生』)、清水博さん(第1060夜『生命を捉えなおす』)、森村泰昌さん(第890夜『芸術家Mのできるまで』)、甲斐大策さん(第394夜『餃子ロード』)を、それぞれ「千夜千冊」の一節を読み上げて紹介し、会場全体が拍手を送った。特に森村さんの時は女優や名画の人物に“変身”した、衝撃的な作品が次々とスクリーンにディスプレイされ、静かな歓声が上がった。
最後に、“祭り”のテーマに回帰して、「長崎おくんち」などの豪壮な祭りの映像で第1部を締めた。
■茶と石舞台と「陰翳礼讃」
参加者がホワイエで茶菓を味わいながらの休憩の間、舞台ではスタッフが2枚の真っ白な屏風を扇状に設置し、卓や茶器を置いて茶会の準備を進める。休憩終了後、アナウンスなどの前触れもなく、遠州流家元・小堀宗実さんと資生堂名誉会長・福原義春さんが壇上に上がり、第2部が始まった。
福原さんに菓子を出した後、小堀さんが遠州流の立礼卓(りゅうれいじょく)に着いて、早速点前を披露。小堀さんの手元をライブカメラがズームし、スクリーンに映る一つ一つの所作に皆が注目する。湯を茶碗に注ぐ音。茶筅を回す音。会場の全員が物音一つ立てず、点前の音だけが聴こえる時間が過ぎる。お茶を口に運ぶ福原さんを、「少しお熱いようで」と小堀さんが気遣い、「結構でございます」と福原さんがにこやかに応える。アルヴァ・アールトの水差しや「円相」が描かれた掛け軸など、道具の話から2人の歓談が始まり、「現代の日本はたくさんのものを失ってしまった」と憂う福原さんが、日本への思いを語る。
次に福原さんの紹介で登壇したのは、屏風をプロデュースした内藤廣さんである。お茶を受けた後、内藤さんが松岡とコラボレーションして作った二期倶楽部の「七石舞台」にまつわる写真を次々に披露した。最後にたくさんの木の影が逆さに舞台の表面に映っている写真が、茶会を神秘的な雰囲気で包んだ。

茶会終了後、松岡が「屏風が変貌します」と、山口小夜子さんのパフォーマンスを予告すると、舞台は暗転。突如、正方形の白い光が屏風の前に座る山口さんを照らし、谷崎潤一郎「陰翳礼讃」の朗読パフォーマンスが始まった。2枚の屏風に、2台のプロジェクターが同じ映像をパラレルに映し出す、不可思議な映像空間が現出した。屏風に墨が流れ、山口さんの分身のような影が立ち上がるかと思えば、突如赤い血が滴り落ちる。力強くも妖艶な朗読の声と、映像に自らの身体を重ねて舞う姿に、皆が魅了し圧倒された。


■弁当と「本貌」、そして「好きになった人」
第3部は北山ひとみさんがプロデュースする夕食会である。幅約50センチの机が、長さ約50メートルに渡ってホワイエに並び、誰かと向い合わせに座って食事をする。藤本さんが考案した独特の食事スタイルであった。「吉兆」の特製弁当と那須から直送した有機野菜の盛り合わせが卓に並ぶ。誰もが和やかに談笑しながら、舌鼓を打っていた。

その間に、ホール内では座席の大転換を行った。ホールの中央部に『千夜千冊全集』を置いた「燦架(さんか)」を並べ、それを囲むように座席を馬蹄形に並べ替える。進行役の金子さんも「ローマのコロシアムのようだ」と驚きながら、ラストの第4部が始まった。
はじめに、金子さんが来場者のみなさんに自らマイクを手渡して感想を聞く。過去の連塾に毎回来ている高橋睦郎さんは「連塾が“祭り”として開かれた感じを受けた」と述べ、松岡に「是非高橋さんも出てくださいよ」と出演を打診される一幕も。
そして千夜千冊全集の巻頭写真「本貌(ほんのかお)」を撮影した十文字美信さんが登場。「本を撮るとはどういうことだったか」という金子さんの質問に、「表紙とか形とか大きさ、あと無意識に開いたページなど、一番最初に本を見た瞬間を写真にした感じ」と答える十文字さん。何十枚も連続的にスクリーンに投射される「本貌」を、撮影時の裏話などをユーモアたっぷりに交えて解説し、会場を沸かせた。


その後、『千夜千冊全集』の装丁を行った福原さんが再び登場し、「ネットとは全然違う」と『千夜千冊全集』の魅力を強調。松岡も壇上に上がり、福原さんとのトークの途中で、『千夜千冊全集』に収録される「千夜短歌」を詠んだ小池純代さん(歌人・ISIS編集学校師範)を紹介。「千夜千冊という大きな家に宿を借りた」という感想をいただいた。
最後に、「数寄になったひと」というテーマ名の“種明かし”、都はるみ「好きになった人」のライブ映像で大団円を迎えた。
延べ8時間に渡る、もはや“塾”のレベルを遥かに超越した連塾第一祭。松岡も最後のほうで少し話していたが、出演者・スタッフともども、全員がボランティアである。藤本さんの照明・音響チーム、遠州流の皆さん、内藤事務所の皆さん、燦架制作チーム、求龍堂、ISIS編集学校の有志など、多くの人の協力が“祭”を支えた。そんな第一祭の熱気も冷めやらぬ中、早くも松岡と連塾スタッフは第二祭の準備に取り掛かっている。
(編集工学研究所GEAR 興梠証 editor)







































![イシス編集学校[破]アリスとテレス賞](http://www.isis.ne.jp/isis/at_banner.gif)
![イシス編集学校[支所]九天玄気組](http://www.isis.ne.jp/isis/kyuten_1.jpg)

