第九百二十一夜
つげ義春『ねじ式・紅い花』
(4/7)
マンガもそうである。ついつい頷いてしまう。
たとえば、この『ねじ式・紅い花』という作品集には『大場電気鍍金工業所』が最後に入っている。
冒頭、場末の小さなメッキ工場に、夫を亡くしたオカミさんと、おそらくはつげ義春であろう「義ちゃん」という少年工の二人だけが、ほそぼそと研磨をしている。オカミさんの夫は大場鍍金の社長だが、肺をやられて1年前に死んだ。
すぐそばの掘っ建て小屋に「金子さん」という元工場長が衰弱して住んでいる。やはり肺をやられたのだが補償もなく、女房がどこかで鉄屑を拾って生活費にあてている。その金子さんが死んで、「三好さん」という工員が来た。何の仕事もないところにやっと米軍から散弾磨きの仕事がきたので、義ちゃんは大いにはりきったのだが、ある日、気がついたらオカミさんと三好さんは夜逃げしていた――。そういう話であった。
これが納得できるのだ。頷ける。
なぜこんなふうに頷けるかと考えてみると、つげはその出来事やその旅先になんとなく入っていくのに、そこをフリーズさせたまま切り上げる。何かが象徴されたとたん、マンガが終わってしまうのだ。この切り上げがわれわれをして「頷ける」にしていたのであった。このフリーズは、写真なのである。
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