第八百七十九夜
稲垣足穂『一千一秒物語』
(7/7)

 すでに知られているように、タルホは自分が生涯かけて書くものは『一千一秒物語』の脚注にすぎないだろうと予告した。まさにタルホはその予告に違わず、つねにそのようにしつづけた。
 脚注か。ぼくもそんなことを言ってみたいと思ったものだ。しかし何の脚注にすればいいのだろうか。タルホは自分のお尻に脚注をくっつけた。では、ぼくは? そのことを考えると、居ても立ってもいられずに、ぼくは京都桃山のタルホを訪れた。
 この話はまだ書いたことがなかっようにおもうのだが、ぼくが最初に稲垣足穂を訪れたときのことである。そこでタルホが言ってくれたのは、「ちゃんと準備をしたら、あとは好きなようにしやはったらええんや」ということだった。ちゃんと準備をしたら? そうなのだ、われわれは最初に一番小さな模型をつくることなのだ。その模型をつくらずして、われわれは外出してしまいがちになる。
 われわれはどこかに月の人がいると思いすぎている者なのだ。タルホはすでに『一千一秒物語』に書いていた――。
  月の人とは ちょうど散歩からかえってきてうしろにドアをしめた自分であったと気がついた

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