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●この日、開場から観衆の目を奪っていたステージの書棚は、組み合わせ自在の書棚群からなるもの。50基が並べられ、千夜千冊の本から約600冊、美しく配架されている。この書棚は、この日が初めてのお目見えとなったオリジナル作品。千夜千冊の世界をまったく新たな本棚の構造からあらわそうという「燦架」プロジェクトが結んだ結晶だった。
1棚3冊の本が自在に組み上がる燦架のコンセプトが斬新な映像で公開された
千夜千冊にふさわしい新たな書の空間を考えられた牧浦徳昭さん、北山ひとみさん、山中祐一郎さん(中央左から)
ステージにはこの「千夜千冊・結」の世話人の一人であるプロダクトデザイナーの坂井直樹さんが駆けつけ、自ら焼かれたという工芸皿を松岡にプレゼントしてくれた。
【金子】千冊完了の時期を迎えて、周辺ではいろいろなコトを起こそうとすることが始まっています。今日はそのいくつかを紹介しますが、その最初がこの舞台上に設えられた書棚です。計画されたのはこの3人の方です。
【北山ひとみ】(二期リゾート代表) 今日の棚のお披露目ができるまで1年半掛かりました。松岡さんが千夜千冊に書いたヴァレリーの『テスト氏』のように、強い意志をもってピュアに、頑固に完成させたいと進めてきました。この棚を千棚にしようという組織、「千夜千冊・結(ゆい)」をつくりましたので、ぜひご参加ください。
【牧浦徳昭】(プロデューサー) 空海がつくった東寺の立体曼荼羅のように、千夜千冊の世界を空間的に表現したかった。ただ並べるだけでなく、自在に組合わさる形でないと千夜千冊が表現できないため、木材と金属とガラスと和紙を組み合わせ、新たな構造体をつくりました。書棚を購入した人が千夜千冊の1冊を選ぶと、松岡さんが千夜千冊以外から2冊選んでセットとし、さらにその3冊にあった書画を松岡さんが棚の和紙に表現するという計画です。
【山中祐一郎】(建築家) 松岡さんと30回以上の打ち合わせを行ってようやく形になったものです。棚と棚がヒンジでつながり、棚全体の形や高さ、角度の設定が自在です。また、松岡さんが本の置き方に意味がもたれているので、棚の中の本立てを棒状として、本がどのような形でも並べられるのも大きな特長ですね。
「燦架」、1年半の試行錯誤
「千夜千冊」で、書籍宇宙空間ともいえる世界をつくれないか、そう牧浦徳昭さんが着想してから始まった千夜千冊書棚プロジェクト。約一年半前、縁が縁をよんで、二期倶楽部の北山ひとみさん、建築家・プロダクトデザイナーの山中祐一郎さんが結集し、初めての制作会議がスタートした。以来、月に数回会議がもたれ、いかに松岡正剛の知を伝える書棚をつくるかの試行錯誤が始まる。

会議は和気あいあいとしながらも、ビス一本たりとも妥協しない真剣勝負、試作品は7〜8タイプを数えた。当初予定されていたモデルはすべて木製品。しかし完成品では、常識を破ってガラス、金属、和紙、ゴムなどの材料が採用されることになる。色や手触りにもこだわり、側面のパンチメタルは松岡の俳号「玄月」にちなむ「玄」の色が表現された。一つ一つの書棚が独立しながらも、「千夜千冊」全体を内包する超部分「燦架」。千架三千冊の夢はいま始まったばかり。

想像を刺激する「燦架」の書籍宇宙

千夜千冊本1冊と松岡選定本2冊、計3冊が織りなす書籍宇宙を自由に表現する燦架の構造。棒状の本立てを底面に巡らされた多数の穴に差し込むことで、本の向きにこだわらない、縦・横・斜めの配架、本の見開きディスプレイなど、これまでの書棚ではありえなかった収納を可能にした。スタッフが取り組んでみたところ、そのあまりの自由度に想像が刺激され、やみつきになったとか。写真はホワイエに展示された燦架。

「平成の売茶翁」葉桐清一郎さん

ステージ上の松岡やいとうせいこうさんに、煎茶をタイミングよく差し入れてくださったのは、「平成の売茶翁」葉桐清一郎さん。500冊記念トークにつづいて、この日もステージ脇で道具をセットし、格別の煎茶で松岡を支えてくださった。お茶の素晴らしさを一人でも多くの方に知ってもらいたいと、葉桐さんは10年前から、茶道具を携え、商売抜きで全国各地を行脚している。

 
 
 
 
第688夜 中里介山『大菩薩峠』
 
【いとう】いよいよ第1部の最後ですが、この中里介山の『大菩薩峠』の千夜千冊を松岡さんが朗読し、尺八の中村明一さんが合わせるというスペシャルプログラムです。
 
 
●松岡による『大菩薩峠』の5分にわたる朗読の締めくくりは、本書が「ニヒリズムの藍染から、ロマンティズムの紅染へ様相を変える」場面に現れるという「間(あい)の山のお君」の唄う「間の山節」の歌詞だった。

  夕べあしたの鐘の声 
  寂滅為楽と響けども
  聞いて驚く人もなし

  花は散りても春は咲く
  鳥は古巣へ帰れども
  行きて帰らぬ死出の旅

歌詞の直後に始まったのが、中村さんの超絶的な技を駆使した尺八演奏。曲は、まさに『大菩薩峠』の世界、虚無僧に伝承されていきたという「薩慈」(さじ)が選ばれた。日本でただ一人可能という呼気と吸気を同時に行う技法で、まったく息継ぎのない驚くべき演奏が繰り広げられ、会場全体が息を止めて聴き入った。


 

【いとう】
今日は超名人たちの恐ろしいぐらいの競演ですね。さあ、ここまでで688夜を振り返ってきました。残る300冊を第2部で振り返っていきますが、一冊一冊、松岡さんの重しを取り除いて、最後は新たに飛び立てる松岡さんをみんなで見られるようにしていきたいと思います。

 

ジミ・ヘンドリックスを愛する尺八奏者 中村明一さん

吹きながら同時に息を吸い、息継ぎなしに吹き続ける「循環呼吸」を自在に操る中村さんの音色に、ゲストをはじめ会場の誰もが驚嘆。しかもその音には、クラシック、ジャズ、ロックが隠されていた・・・。

もともとロック少年だった中村さんは、19歳の頃、武満徹のレコードから流れる尺八の音色に衝撃を受け、その日のうちに演奏者・横山勝也氏に電話をしたという。

NHK邦楽技能者育成会卒業後には、尺八を携えて世界最高峰といわれる米国バークリー音楽院でクラシック・現代音楽の作曲とジャズ理論を学び、首席で卒業。以来、十数年にわたり、尺八演奏の第一線を担い、世界約30ヶ国で公演、全世界40局余の放送局に出演している。

尺八はシンプルだが潜在能力が高い。それをフルに引き出し、楽器として世界に比類なき地位を確立したいと考える中村さん。超国籍バンド「Kokoo(コクー)」を率いる。

本日大盛況!「千社札」

著者・ゲストの名前が一枚一枚の札となった「千社札」は、まるで歌舞伎小屋ののぼり旗のように色鮮やか。ホール入口に設置され、この日の盛況を観客に伝える格好のメディアとなった。

 

千夜千冊達成にちなみ、ホワイエに用意された「1000」(右上)とかたちづくられたプチケーキ。人々を楽しませた「SEIGOW」(左)「ISIS」(右下)と書かれたプチケーキはなんとブック型。
演奏あり、朗読あり、プロジェクト発表ありという誰も予想しなかった第1部の趣向。30分間の休憩中、会場外のホワイエではゲスト、著者、著名人をはじめとする大勢の人々が集い、つづく第2部の展開に思いを寄せながら、その興奮を互いに交し合った。

 

 

 
    撮影:川本聖哉(印を除く)
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    次号へ続く





  松岡正剛の千夜千冊
 

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